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2025年10月22日(水)

AIの発展を支える半導体パッケージング技術とその未来

株式会社エンライト 伊藤 元昭
 

現代の人工知能(AI)、特に「ChatGPT」に代表される大規模言語モデル(LLM)を基にした生成AIの劇的な発展に伴って、半導体技術にはこれまで以上に速く、大きな進化が迫られています(図1)。LLMのような巨大AIモデルの学習処理と推論処理の実行には、従来コンピュータでは対応できないレベルの演算能力が不可欠です。
 

図1 AIの発展に伴って、半導体技術にはこれまで以上に速く、大きな進化が求められている


図1 AIの発展に伴って、半導体技術にはこれまで以上に速く、大きな進化が求められている
出典:AdobeStock #481086981

 

特に、プロセッサとメモリーの間で膨大なデータを絶え間なくやり取りするためのデータ転送技術に、継続的進化が求められるようになりました。そこがボトルネックとなり、AIシステム全体の性能を大きく左右するようになったからです。遅延が起きれば、いかに高性能なGPUを利用したとしても、その潜在能力を発揮することができません。そして、半導体開発においては、同一パッケージ内に集積する複数のチップ(もしくはチップレット)同士をより高密度かつ広帯域、低遅延で接続するためのパッケージング技術が、AIシステムの性能を決定づける最重要課題になってきました。

ここでは、AIシステム向け半導体チップの代表的応用先である「データセンター」と「自動車」、そしてAIのさらなる進化を支える中核技術になると目される「光電融合」の3つの領域に注目して、AIの進化を支えるパッケージング技術の開発・導入動向を紹介します。

 

データセンター: AI演算を支えるチップレットを駆使した集積化の加速

データセンターは、最先端の半導体パッケージング技術が最も早く導入される応用領域であると言えます(図2)。この領域では、AI関連処理などに伴うデータ転送のボトルネックを解消するパッケージング技術として、チップレットや2.5D/3Dパッケージなどの重要性が高まっています。
 

図2 データセンター向けチップには、最先端のパッケージング技術が投入される

 

図2 データセンター向けチップには、最先端のパッケージング技術が投入される
出典:AdobeStock #430508589

 

チップレットの活用は、演算器の並列度が高く、回路規模が巨大なAIチップにおいて、性能向上とコスト削減を両立させるための欠かせない手法となっています。特に近年のAIチップでは、演算を実行するプロセッサコアのなるべく近隣により大容量のメモリーを置き、高密度かつ広帯域な配線でつなぐ必要が出てきています。すべてを1チップ化することは困難であり、チップレットを活用して小規模な回路に個片化し、なおかつ広帯域かつ低遅延なデータ転送を可能にする2.5Dもしくは3Dパッケージング技術を積極活用する必要が出てきているのです。

GPUなどの主記憶として活用されるようになったHBM (High-Bandwidth Memory) では複数のDRAMダイを垂直に積層し、TSV (Through-Silicon Via、シリコン貫通電極) で接続することで、従来メモリーとは比較にならないほど広帯域なデータ転送を可能にしています。そして、HBMとGPUの間を高密度配線のインタポーザでつなぎ、従来の基板接続よりも広帯域・低遅延でのデータ伝送を実現にしています。近い将来には、3Dパッケージング技術をAIアクセラレータとメモリーチップの集積にも適用し、データ転送時の遅延と消費電力を極限まで改善する方向へと進化するとみられています。

加えて、新たなパッケージ材料や接続技術も、データセンター用チップに優先適用されていきます。高性能パッケージ用基板の大型化・配線微細化に対応するために導入されるガラス基板や、チップレット間をより高密度・広帯域・低遅延で接続するためのハイブリッドボンディングなどはその代表例です。

 

自動車: スマート化を実現し、支える高性能・高信頼の実装技術

自動車の領域には、データセンター向けとは似て非なる半導体パッケージング技術のニーズが存在します。見方によっては、データセンター向け以上に厳しい技術的要求が求められていると言えます。

自動運転システムの進化・実装、さらにはソフトウエア定義車両(SDV)への進化に伴って、近未来のクルマは高度なAIを搭載した「走るデータセンター」と呼べるほど高い情報処理能力を備えることになりそうです(図3)。車載コンピュータの中核部に置くチップには、データセンター向けと同等レベルの高性能を実現できる高性能パッケージング技術が求められ、データセンター向けと同様のチップレットや最先端の2.5D/3Dパッケージング技術などの活用が加速する見込みです。
 

図3 近未来車向けチップでは、高性能と高信頼を兼ね備えるパッケージング技術が求められる

 

図3 近未来車向けチップでは、高性能と高信頼を兼ね備えるパッケージング技術が求められる
出典:AdobeStock #899547959

 

また、クルマは人命を預かる製品でもあります。このため、高性能を実現しながら、同時にデータセンター向けよりも厳しい「究極の信頼性」と「長寿命」を担保できるパッケージング技術が求められます。エンジンルーム内では125℃を超える高温に達する一方、寒冷地では-40℃以下になることもあります。自動車用半導体チップには、このような厳しい温度環境に耐え、走行中の機械的振動にも長期間(15年以上)にわたって耐え抜く、極めて高い信頼性が要求されます。こうした要求を満たすため、パッケージング材料には、高性能化を実現しながら、同時に高耐熱、低熱膨張係数、高放熱といった特徴や高温環境下や振動環境下でも長期にわたって確実に機能する、信頼性の高い材料が用いられます。

また別途、より高電圧・大電流のパワーエレクトロニクス回路を、高効率・高密度・高信頼で実装できるパッケージング技術も必要になっています。最新のEVでは、直流800Vのバッテリーが採用されるようになり、SDVの中央コンピュータのプロセッサは1000Aを超える電源システムで動くようになりました。EVバッテリー管理システム(BMS)やインバータ制御用の回路、さらには車載コンピュータの電源回路などでは、マイクロコントローラ、ドライバーIC、パワー半導体、センサーなどのパワーエレクトロニクス回路を構成する多様なデバイスをなるべく多く集積し、限られた車内空間の有効利用や部品点数の削減などを推し進める必要が出てきています。

 

光電融合: IOWN構想が描く未来

データ転送の媒体を電気信号から光信号に代えることで、AIシステムなどで顕在化してきているデータ転送にまつわる帯域、遅延、消費電力、信頼性などの問題を抜本的に解消しようとする動きが加速しています。電気と光の技術を融合させる「光電融合」の開発・実用化に取り組むNTTの「IOWN (Innovative Optical and Wireless Network) 構想」は、その代表的動きです。光電融合技術を実現するためには、製造技術と設計技術の双方の技術体系の刷新が求められます。特にパッケージング技術は、最も早く技術革新の波が押し寄せる領域であると言えます。

光電融合の中核をなす技術がシリコンフォトニクスです。光の導波路(電気回路の配線に相当)を従来の半導体と同じシリコン基板上に形成し、そこに変調器、受光器といった光コンポーネントをCMOS製造プロセスで集積する技術です。その適用によって、光回路を安価かつ大規模に製造することが可能になります。

光電融合の導入は段階的に進められます。既に、データセンター間では光信号によるデータ転送が実現していますが、これがボード間、チップ間、チップ内とより短距離を光信号でつなぐ方向へと向かいます(図4)。電気信号を扱う複数の従来半導体チップをシリコンフォトニクスで作ったインタポーザでつなぎ、比較的長い距離の配線に光通信を導入するところから始まります。その後、さらなる技術革新とシリコンフォトニクスの進化・成熟を進めたうえで、光回路を集積したシリコンフォトニクスチップ(PIC: Photonic Integrated Circuit)を利用することになりそうです。シリコンフォトニクスチップが実用化した後にも、それを駆動・制御するためには電子回路チップ(EIC: Electronic Integrated Circuit)が不可欠になります。PICとEICを緊密かつ低損失で接続するための光電融合時代のパッケージ技術が必要になります。
 

 図4 光電融合の進化の方向性 出典:NTT


図4 光電融合の進化の方向性
出典:NTT

 

2025年12月17日(水)から19日(金)にかけて東京ビッグサイトで開催される「SEMICON Japan 2025」では、会期2日目の18日(木)に、「Advanced Packaging and Chiplet Summit 2025」を開催します。そこでは、AIの進化を支える半導体のパッケージング技術の開発・活用の最前線に関する数々の講演が企画されています。AIデータセンターで求められる未来のパッケージング技術についてAWS Annapurna Labs Vice President of TechnologyのBabak Sabi氏が、現在開発中の自動車用チップレットSoCについて自動車用先端SoC技術研究組合 専務理事の川原伸章氏が、IOWNを中心としてサステナブル社会を実現する取り組みについてNTTドコモビジネス 代表取締役副社長 副社長執行役員 CCXOの工藤晶子氏が講演します。実際に足を運び、パッケージング技術の進化の最前線の様子を実感してみてはいかがでしょうか。

APCS


半導体パッケージング、基板実装分野の
トッププレイヤーが集結

Advanced Packaging and Chiplet Summit(APCS)の詳細はこちら