2021年1月27日(水)
SEMICON Japan Virtual オープニングパネル / グランドフィナーレ レビュー
データ活用社会の進展と国際情勢の変化で、日本の半導体産業に好機が到来
(株)エンライト 伊藤 元昭
SEMI Japan 安藤 洋一郎
コロナ禍と米中対立という、世界中の社会と産業、生活を一変させる出来事が起き、日本の半導体業界を取り巻くビジネス環境にも大きな影響が及んでいます。日本の半導体産業は、どのような舵取りをしていくべきなのでしょうか。こうした環境下で、2020年12月11日から18日に掛けて、初めての試みであるバーチャルイベントとしてSEMICON Japan Virtualが開催されました。
初日に開催された「オープニングパネル 産官学トップ鼎談:豊かなデジタル社会構築への課題と提言」ではデジタル化による社会の高度化に向けて産官学に期待される貢献について、最終日に開催された「グランドフィナーレパネル:グローバル半導体産業の持続的発展への課題と提言」では世界の半導体産業の中での日本の役割について、日本を代表するビジョナリーが集い徹底議論しました。ここでは、2つのパネルで交わされた議論のエッセンスを報告します。
オープニングパネル:産官学の力を結集して、日本の半導体産業を再創業
オープニングパネルでは、政界を代表して国際通商に精通される甘利明衆議院議員、学会を代表して東京大学の五神真総長、産業界を代表して東京エレクトロン元会長・社長の東哲郎氏が集い、デジタル化によって開く未来と、そのために解決すべき諸課題について議論しました。モデレーターは、経済番組のキャスターを数多く手掛ける小谷真生子氏が担当しました。
オープニングパネルに参加された方々
甘利明衆議院議員(左から2番目)、東京大学の五神真総長(左から3番目)、東京エレクトロン元会長・社長の東哲郎氏(左から4番目)。モデレーターは、小谷真生子氏(左から1番目)。
パネル冒頭で、甘利衆議院議員は「資源もない国土も狭い日本では、知恵によって、ゼロから価値を生み出す政策が何よりも大切です。半導体は産業のコメであり、そこが経済産業政策の核になります」と日本における半導体産業の重要性を改めて強調しました。
これを受けて五神総長は、「私は、レーザー技術を専門に40年研究人生を歩んできました。レーザーが身近な応用に利用できるほど進化したのは、実は半導体技術の賜なのです。これまで日本では、半導体の技術開発をリードする多くの人材を育ててきました。しかし現状、その優秀な人材を十分生かせていない残念な状況です。盛り返すため、大学が果たすべき役割は大きいと考えています」と日本の半導体業界の現状と抱えている課題を語りました。
東氏も「産官学の力を結集して立ち上げ、ピーク時には世界の約半分を生産する半導体大国だった日本ですが、米国の復活とアジア諸国の台頭で現在は10%を生産するだけの状態に甘んじています」と現状を総括しました。ただし、「ビッグデータ解析やAIなど応用技術の高度化、さらには自動車、医療、FAなど応用の広がりによって、半導体市場はさらに拡大。いずれ1000兆円を超える市場規模も望めるという見方もあります。日本には、半導体材料では55%、製造装置では33%のシェアを占め、半導体メーカーを支える盤石の基盤があります。もう一度、日本の半導体産業を復活させるチャンスが大いにあると考えています。創業期と同様に、再び産官学の力の結集が必要になっていると考えています」と、産官学の協力による日本の半導体産業の再興の機会が訪れていることを指摘しました。
世界の半導体をリードする人材はいる、後は求心力が欲しい
こうした東氏の言葉に対して五神総長は、「半導体技術は、従来の延長線上の進化では飽和状態となりつつあります。その一方で、ニーズは爆発的に高まり、応用も急激に拡大している。この状況は、真の技術革新が求められていることを意味します。日本には、半導体の基盤技術を熟知する産業界のリーダーが数多くいます。加えて、大学や研究機関には、技術革新の種となる知見を持つ研究者が多くいます。特に材料の分野でその傾向が顕著です。従来の微細化という発想を超えた新たな半導体デバイスの創出を、新材料の開発と融合させて進めることで技術革新が生まれる可能性が高まっています」と半導体産業再興に指針を示しました。
日本では半導体産業の黎明期の1970年代広範に「超LSI技術研究組合」という産官学連携の組織を立ち上げ、大成功しました。東氏は、「日本企業は、米国企業に比べて、研究開発における人的ネットワークが孤立的で企業間の結びつきが希薄です。このことが、開発スピードに悪影響を及ぼしているように思えます。復興に向けて、各企業の戦略や取り組みを束ね、結束を強める方法を考える国家戦略を打ち出す時期ではないのでしょうか」と、日本企業の求心力となるシンボリックな仕組みやプロジェクトの必要性を指摘しました。
これを受けて甘利衆議院議員は、「日本の大学のシーズは、極めてレベルが高いと思います。しかし、活用が進んでおらず、インベンションで勝って、イノベーションで負ける歴史です。つまり、宝の持ち腐れの状況です。大学が中心となり、自らの知的資産の強み(インベンション)を産業界に訴求(イノベーション)する知識産業体になれば、結びつきが固くイノベーションエコシステム(生態系)なっていくのではないでしょうか」と日本の大学には半導体産業の再興に資する力があることを示唆しました。
布石は打った、これから大きな潮流へと展開
2020年にTSMCとの連携を発表した東大の五神総長は、「Society5.0を実現するためには最先端のチップが必要であり、日本企業は最先端半導体の開発・製造にコミットする必要があります。しかし、現在、最先端のチップを製造できるのは世界でも2社もしくは3社。いずれも日本企業ではありません。ただし、これらの企業も、技術的難易度が極限まで高まっていることで、こわごわ製造している状態です。そこに東大など日本のアカデミアの学理が貢献できると考えています。日本の基礎研究に対する世界のリスペクトがある今ならば、表舞台で活躍できる道筋が残っています。東大はTSMCとの連携を決めましたが、日本企業をそこに引き込み、最先端にタッチできる状況を作りたいと考えています」と日本の半導体産業再興の起点となり得る布石を打ったことを語りました。
東氏は、「東大が進めているような明確なビジョンを掲げ、確実に実行し、その意図と経過、成果を、透明性を持って説明してくれると、産業界から資金が集まりやすいと思います」と布石が大きな潮流へと発展していく可能性があることを指摘しました。
グランドフィナーレパネル:米中対立で進むローカル化に適応する施策が必須
グランドフィナーレパネルでは、経済産業省 商務情報政策局 局長の平井裕秀氏と、日本に半導体の開発・生産拠点を置くチップメーカー代表としてウエスタンデジタルジャパン プレジデントの小池淳義氏が、半導体材料のサプライヤー代表でJSR 取締役会長の小柴満信氏が、半導体製造装置のサプライヤー代表で東京エレクトロン 取締役会長の常石哲男氏が参加し、半導体業界の持続的成長とイノベーションのあり方、そして今後の企業成長の条件となるであろうESG(環境、社会、企業統治)、特に省エネルギーへの取り組みについて議論しました。モデレーターは、経済番組のキャスターを数多く手掛ける大里希世氏が務めました。
グランドフィナーレパネルに参加された方々
経済産業省 商務情報政策局 局長の平井裕秀氏(左から2番目)、ウエスタンデジタルジャパン プレジデントの小池淳義氏(左から3番目)、JSR 取締役会長の小柴満信氏(左から5番目)、東京エレクトロン 取締役会長の常石哲男氏(左から4番目)。モデレーターは、大里希世氏(左から1番目)。
まずパネル冒頭では、米中貿易摩擦の影響について議論。平井氏が日本政府の見方と立場を説明して議論の口火を切りました。「米中の対立構造は、短期に終わるものではないとみています。対立がますます厳しくなっていくことを前提として、対応シナリオを考えていく必要があるでしょう。隣国であり、大市場である中国には慎重に対応していく必要もあるのですが、萎縮することなく市場に対峙していくことが重要だと考えています。忘れてはならないことは、日本の産業界が両国の板挟みになっている状況を放置できないということです。新しい地政学的状況の中で、どのように主権国家として進めていくべきか検討し始めています」と説明しました。
米中対立は、あらゆる産業で進むデジタル化の潮流に冷や水を浴びせる可能性がある構図です。デジタル化の潮流に対する影響について、常石氏は「データ活用社会の進展は猛スピードで進んでいます。米中対立で若干の向かい風を受けますが、ジェット機のように向かい風の中でも驀進していくと考えています」と半導体産業の長期的成長には大きな影響はないという見通しを語りました。
ただし、米中対立が何の影響も及ぼさないわけではなさそうです。小柴氏は「米中対立は、今後、20年くらいは難しい期間が続くとみています。これまでは技術も市場も一直線にグローバル化してきましたが、これからしばらくは地域化が進むとみています。これまで通りのグローバル戦略では通用しません。日本企業がよいポジションを取るためには、固有の先端技術を保有することが何より重要だと考えています」と今後の舵取りのポイントを述べました。
さらに小池氏は、「チップメーカーとしては、米中対立のような問題がでてきた際、安定したサプライチェーンをいかに確立するかが極めて重要になります。供給責任を果たすため、サプライチェーンの多角化を慎重に考えていくことになるでしょう」としました。
こうした見方を受けて平井氏は、「ビジネス環境の変化から、材料・製造装置からチップの開発・製造、さらにはそのユーザーまでを念頭に置いた広い視点からの日本の半導体産業戦略を再検討する必要があると考えています。チップメーカーについては、日本に残されたメーカーを、純日本企業にこだわることなく、日本に拠点を置く企業すべて対象に盛り上げていきます。同時に、材料・製造装置メーカーをさらに強化していくための場も創出していきます」と日本政府がこの機に半導体産業を再興する意欲を持つことを語りました。
流通するデータの増大に見合った低消費電力化を推進
次に、国連が掲げる「持続的開発目標(SDGs)」の達成に向けた半導体産業の貢献に突いて議論しました。
小池氏は、エネルギー消費の抑制について、「2020年における世界で流通するデータ量は既に44ゼタバイトに達しており、2025年には175ゼタバイトにまで急増すると予想されています。こうした膨大なデータを処理するために、大量に電力を消費する可能性が高くなります。いかにして消費電力の増大を抑えるか、その手法の提供について半導体業界に期待が集まっています」とデータ活用の拡大に見合った低消費電力化の重要性を説きました。
常石氏は、「半導体製造装置メーカーとしては、工場やオフィスでの消費する電力を抑えるとともに、提供する半導体製造装置の消費電力低減、さらには半導体の製造、設計、材料のそれぞれの企業が協力して省電力化を促す半導体技術の開発そして超省電力チップ開発への協働体制など、業界全体として多角的な貢献を推進していく必要があると考えています。また地球環境保全をどれだけ国や企業が支持し協力・貢献したかによって、国際的にもFairな評価とご褒美の仕組みなどの整備も必要になるでしょう」と国際的な評価方法とRewardの仕組みの必要性も指摘しました。
平井氏は、「日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを実現するという目標を掲げています。半導体産業自身で排出しているCO2は、他産業に比べれば多くはありません。これから電動化が進むモビリティの低消費電力化を促す、新素材を活用したパワー半導体の提供などに期待しています。カーボンニュートラルの実現は、そうした半導体産業の貢献をあてにしてプランを描いていようなところがあります」と半導体産業の貢献に大いに期待していることを語りました。
ただし、取り組みに際して留意すべき点もありそうです。小柴氏は「CO2削減の意味合いが、2019年と2020年では大きく変わったと感じています。これまでは企業や人々が貢献する目的の中心は、持続的社会の実現でした。ところが、国境炭素税(Carbon Border Tax)の導入が遡上に上がり、地球環境保全という大義の下で、自国に有利なビジネス環境を整えようとする国や地域が出てきています。企業として本当にやるべきことは何か、慎重に見極めなければなりません」と世界共通の課題解決と自国への利益誘導を融合させた戦略への対処の必要性を訴えました。
平井氏は、「地球環境保全の取り組みを長続きさせるためには、関わる企業の間での負担や貢献に応じた利益をフェアに査定できるシステム作りがポイントになると考えています。ここが知恵の出しどころです」と語りました。
日本の半導体産業をもっと魅力的な産業に
最後に、半導体産業が持続的に成長していくうえで、日本はどのような貢献ができるのかについて議論しました。
平井氏は、「グローバルに展開している企業には、ビジネス施策の転換が求められることでしょう。世界の分断が進み、国境を超えた流れが阻害されつつある中、それをどう乗り越えるかがこれからの課題になります。政府としては、企業が円滑に事業を展開できるように支援体制を考えていきます。特に重要な産業が、戦略的価値が高まる一方の半導体です。各国が半導体産業を自国に呼び込もうとする中、世界の中で日本の半導体関連企業が活発にビジネスを展開できるよう支援していきます」と日本の半導体関連企業が支障なくビジネスが展開できる状態を維持できることの重要性を語りました。
小柴氏は、「世界の半導体業界は、日本企業が提供する半導体材料や製造装置がないと動かないのが現状です。このように半導体材料や製造装置の市場で大きなシェアが取れているのは、日本に強いサプライヤーの皆さんがいるからです。このサプライチェーンを大切に維持していくことが重要だと考えています」と日本国内に多様な半導体関連企業が集積している状態の維持が欠かせないことを指摘しました。
小池氏は、「日本が誇るものづくりを発展させた「ものづくり2.0」へのチャレンジに期待しています。ただし、その際、内向きの取り組みにならないよう心がけることが重要です。世界中で進められるチャレンジにも目配りし、よいものはどんどん取り入れていくオープンな思考で当たることが大切です。さらに、大切なことは、半導体産業が、次世代を担う若い人にとって魅力的な産業であることです。魅力のアピールと教育機会の提供が求められています」と次世代を担う若い人材の育成を急ぐ必要性を語りました。
これを受けて常石氏は、「日本の産業界が世界での地位をもっと高い位置に持っていくためには、ダイバーシティ&インクルージョンをも推進し、例えば、世界のトップエンジニアが、日本、または日本の企業で仕事がしたいと思えるように国も努力すべきと考えています。長期的視野から教育システムについて再考・改革をすることが重要です。経営者自体も、グローバル化、多様化していく必要があるでしょう」と大学との協業や国内の大学の世界的な地位向上を求める考えを披露しました。
一方、平井氏は、「産業界が求める人材と、大学などが排出する人材にギャップがあることは承知しています。ただし、ここにきて大学改革がやっと始まりました。優秀な人材を集め、定着させるため、海外企業や他業種に対して競争力のある給与体系なども重要だと考えています」と企業側にも注文を告げました。
SEMIは業界が求めている情報を継続発信します
SEMICON Japan Virtualでは多くの講演・パネルディスカッションを提供いたしましたが、本稿でご紹介した2つのパネルディスカッションは、特に多くの方々に聴講いただき、ポジティブなフィードバックを頂きました。新たな成長期を迎えている半導体産業の関係者が求めている情報は、技術やビジネスの最先端の情報だけではなく、業界としての成長を導くビジョンであることが明らかです。SEMIジャパンは、SEMICONに代表される国際イベントはもとより、会員企業皆様に成長戦略を導く情報を発信すべく、年間を通じたウェビナーやセミナーの開催を続けてまいります。SEMI ジャパンの活動が、グローバル半導体産業の発展と共に、日本の半導体製造およびサプライチェーン産業の更なる成長を実現する一助になれることを願っています。