メインコンテンツに移動

2026年2月18日(水)

SEMICON Japan 2025レビュー 未来を探る視点

最先端チップの開発・製造で重要性が高まる検査・計測技術の最前線と未来を議論

株式会社エンライト 伊藤 元昭
 

あらゆる半導体チップの開発と製造の過程において、検査・計測技術の重要性が急激に高まっています。こうした状況を受けて、2025年12月17日〜19日に開催されたSEMICON Japan 2025に併せて、開発・製造に向けた検査・計測技術にフォーカスしたサミット、「MIS(Metrology & Inspection Summit)」が初めて開催されました(図1)。

図1 重要性が高まる検査・計測技術にフォーカスしたサミット、「MIS(Metrology & Inspection Summit)」の展示会場の様子 出所:筆者が撮影


図1 重要性が高まる検査・計測技術にフォーカスしたサミット、「MIS(Metrology & Inspection Summit)」の展示会場の様子
出所:筆者が撮影

 

最先端半導体チップでは、素子の立体化と内部構造の複雑化、製造工程数の増加が進んでいます。そして、製造を不安定にする要因は多様化し、発生頻度も高まっています。しかも、微細加工技術ではオングストローム精度が求められるようになり、製造条件のブレ・ズレ・ムラを完全に防ぐことが困難になってきました。最先端ラインで高度なチップを高歩留まりで製造するためには、適切な検査・計測技術を適宜実施し、これらの変動要因と上手に付き合いながら、製造条件を動的に調整する必要が出てきています。

これまで以上に複雑で微細、さらには新材料も投入して作る最先端チップの開発にも、これまでにはない高度な計測技術の活用が欠かせません。効果的かつ効率的な開発は、試作した試料・チップの適切で正確な評価が大前提となります。CMOSロジックやメモリーだけでなく、パワー・RF・センサーなどのあらゆる領域のデバイスで同様の状況に直面しています。

 

半導体の進化・発展を支える検査・計測の未来を議論

SEMICON Japan 2025会期2日目の18日には、「Metrology & Inspectionの将来展望 未来を測る!デバイス・装置・アナリスト、第一線のエキスパートが集結」と題したサミットが開催されました。最先端デバイスの開発・製造に取り組む半導体メーカー、高度な検査・計測装置を開発・供給するメーカー、この市場を継続的にウォッチしているトップアナリストが一堂に会し、半導体検査計測の未来について多角的側面から議論しました(図2)。

Rapidus 常務執行役員の赤堀浩史氏は、最先端半導体チップの開発・製造に向けた検査・計測・分析・解析技術の重要性が高まり続けている現状と、この分野の技術のさらなる進化に対する期待を、現場目線から語りました。同氏は、ライン管理・制御の自律化、自動化、さらには運用のグリーン化を目指す中で、高度な検査・計測装置とセンシング技術をフル活用したデータ収集が不可欠になっていることを強調。特に、AIを活用したライン管理が不可欠になっていることを訴えたうえで、現場で得られるAIの学習・推論に向けたデータの質と量の改善が重要になっていることを指摘しました。そして、データを収集する手段となる検査・計測技術には、より進んだ技術を導入することが何より重要になるとしました。講演の中で同氏は、「単に『良い・悪い』という結果の判定を正確に下すだけでなく、なぜそのような結果となったのか、その原因や仕組みを含む本質を探ることデータを得ることが極めて重要になります。本質を把握できていないと、手掛かりもなく、改善作業を繰り返さなければならなくなるからです」と述べました。

図2 デバイスメーカー・検査装置メーカー・トップアナリストが一堂に会し、半導体検査・計測の未来について多角的に議論 左から順に、講演会場の様子、登壇したRapidusの赤堀浩史氏、日立ハイテクのByoung-Ho Lee氏、TechInsightsのBoris Metodiev氏


図2 デバイスメーカー・検査装置メーカー・トップアナリストが一堂に会し、半導体検査・計測の未来について多角的に議論
左から順に、講演会場の様子、登壇したRapidusの赤堀浩史氏、日立ハイテクのByoung-Ho Lee氏、TechInsightsのBoris Metodiev氏
出所:筆者が撮影
 

日立ハイテクNano-Technology Solution Business Group Senior FellowのByoung-Ho Lee氏は、半導体の検査・計測技術の過去から現在に至る発展の歴史を紐解き、未来の方向性を展望しました。同氏は、解像度の向上、プロファイリングの精度向上、そして計測対象の3D化への対応に向けて、検査・計測技術がどのように進化してきたか解説。その中で、ピーター・ドラッカーの「測れなければ、管理できない」という言葉を引用しながら、半導体製造において高度な検査・計測技術のライン導入が不可欠になっていることを強調しました。「製造対象となるデバイスの微細化と3D化に伴って、将来の検査・計測技術には、より高い解像度とスループットが求められると同時に、製造ライン上に組み込めるコストを抑制した検査・計測技術が求められてきています。こうした多面的要求に応えるためには、単に革新的計測アプローチを導入するだけでなく、AI活用とデータ駆動型解析手法の適用も欠かせなくなってきます」と語りました。

TechInsights Manufacturing Analysis DirectorのBoris Metodiev氏は、半導体関連の検査・計測市場の状況を俯瞰し、今後の市場の成長性について語りました。同氏は、「計測分野の装置市場は年平均7.9%で成長しており、検査分野も同6.6%しています。世界の前工程用製造装置市場の成長率は7.2%とされていますから、検査・計測装置は、製造装置と同等以上の成長が見込まれていることになります」と述べました。特に最先端技術ノード(5nm〜2nm)の製造プロセスでは、素子構造の各層に対して複数の計測ステップを適用する必要があるなるため、ラインに導入すべき検査・計測装置の台数も、導入するそれぞれの装置のスペックも高くなる傾向が見られるそうです。加えて近年、注目すべき新たな質的変化が顕在化してきていることについても言及しました。「先進パッケージング向けの3D測定技術、微細構造の計測に対応した高速電子線および超高感度光学検査技術、リアルタイムデータ解析に向けたAI活用、そして検査・計測装置間のより高度な統合といった、新たな要求が求められるようになってきています」と語っています。

 

より微細で複雑、高精度な検査・計測を可能にする新技術を提案

同じく19日には、「計測検査×産官学連携 2nmを越えて: 日本の産官学協同研究開発最前線」とセミナーが開催されました。ここでは、日本の研究機関、大学、スタートアップ企業で革新的な検査・計測技術の研究開発に携わるキーパーソンが登壇。開発している技術の概要と適用効果を紹介し、半導体の微細化や3D化に向けた貢献ついて訴求しました(図3)。

図3 研究機関、大学、スタートアップ企業のキーパーソンが開発中の最新技術と適用効果を紹介 左から順に、講演会場の様子、登壇した理化学研究所の初井宇記氏、フォトエレクトロンソウルの西谷智博氏、東北大学の黒田理人教授

 
図3 研究機関、大学、スタートアップ企業のキーパーソンが開発中の最新技術と適用効果を紹介
左から順に、講演会場の様子、登壇した理化学研究所の初井宇記氏、フォトエレクトロンソウルの西谷智博氏、東北大学の黒田理人教授
出所:筆者が撮影

 

より微細な立体構造を、高精度かつ非破壊で解析できる技術としてその活用が期待されているX線顕微鏡の開発最前線を、理化学研究所 放射光科学研究センター 半導体プロジェクトリーダーの初井宇記氏が解説しました。同氏は、大型放射光施設「SPring-8」で発生させた極めて高輝度なX線を非破壊X線解析用の光源とすることで、半導体デバイス内部のナノ構造やひずみを可視化できることを解説しました。実際の計測例として、「iPhone」中に組み込まれたアプリケーションプロセッサーのチップ接合部や内部構造を非破壊で観察した例、『タイコグラフィー法』と呼ぶ手法を併用した16nmノードのプロセッサーチップの内部構造の観察例を紹介。現時点で複雑なメタル層の明確な識別やインバーター回路の確認が可能であり、既に10nmの分解能の実現を目指した技術開発を進めていることを明らかにしました。同氏は「測定時間の短縮や光量の増加(約4桁)、ポジショニングの高速化などの課題を解決に向けて、より高い分解能(2nm)の実現が見込まれる新たな放射光施設『SPring8-II』が開発中です。2029年の稼働開始を目指しています。さらに、半導体分野専用の200mの長いビームラインや専用ミラーシステムの開発、高速検出器システム(SITIS)の開発も進めています」と述べました。

微細素子構造の3D化やチップ積層技術の活用が進み、ウエハー上に深い微細な孔を形成するプロセスの導入が多用されるようになってきています。そして、より微細で、高密度、高信頼な孔の形成プロセスを実現するため、高アスペクト比の孔の形状を高精度計測できる電子顕微鏡技術(SEM技術)が求められています。フォトエレクトロンソウル 技術取締役 西谷智博氏は、GaN(窒化ガリウム)で作成した半導体フォトカソードをSEMの光電子ビーム源として活用することを提案しました。GaNにレーザーを照射し、光電効果を利用して電子ビームを放出する技術です。これまでSEMIの電子ビーム源には、熱カソード型と電界放出カソード型の2種類しかなく、約50年間進歩が止まっていました。GaAsを利用したフォトカソードもありましたが、寿命が短く、実用的ではありませんでした。このため、SEMのような電子ビーム利用機器の機能や性能が原理的限界に達しており、高アスペクト比の構造や埋もれた界面、3μm以下の領域の電気的特性の把握などへの適用が困難でした。同氏は、「GaNフォトカソードならば、寿命を従来フォトカソードの20倍以上に延ばすことができます。工場内での観察手段としても利用可能です。また、電子ビームの放出を精緻に制御できることから、SEM像内でピクセル単位での照射量制御が可能になり、MOSFETトランジスタの非接触電気的動作の同時観測や、高アスペクト比の深い孔の明瞭な観察などが実現できるようになります」と述べました。

先端チップを高歩留まりで製造するため、プロセス条件の制御精度要求が高まり続けています。現在では、プロセスの開発時やラインの立ち上げ時だけでなく、量産中のウエハーの状態を精緻に把握してプロセス条件を動的に制御する必要も出てきました。こうした要求に応えるウエハープロセス中のパラメーターをリアルタイムで可視化できるセンサー技術を、東北大学 未来科学技術共同研究センター/大学院工学研究科 教授の黒田理人氏が紹介しました。同氏は、製造装置のチャンバ内のプラズマで生じるシースの動きや放電現象を観察できる高速・高解像度のイメージセンサー技術、半導体製造装置内のガスや液体の濃度分布をリアルタイム計測できる分析機器クラスのSN比を実現したイメージセンサー、0.1aFという高精度での容量計測を実現したことでチップレット集積におけるRDL(再配線層)の微細な近接容量を非接触計測できる近接センサーを紹介しました。同氏は、「センサーの機能性能を高めるための3次元集積技術が進化したことで、ダイナミックレンジのさらなる拡大やセンサーへのスマートな機能の組み込みが可能になりました。こうしたセンサー技術が今後も継続的に進化していけば、プロセスの精緻な管理・制御に貢献することでしょう」と語りました。

Metrology & Inspection Summit


Metrology & Inspection Summit

未来を測る!
デバイス・装置・アナリスト・研究開発、第一線のエキスパートが集結

詳細はこちら