2025年1月20日(火)
SEMICON Japan 2025レビュー 未来を探る視点
AI・サステナビリティ・半導体それぞれの進化による相互発展を議論した「SEMICON Japan 2025」
株式会社エンライト 伊藤 元昭
急速に進化するAI技術の活用と対処、そして持続可能な社会への移行に向けた貢献――。双方でのキーテクノロジーである半導体に対する期待は、高まる一方です。半導体産業には、技術とビジネス両面での継続的なイノベーション創出と、“戦略物資“であるチップの潤沢かつ安定的な供給が求められています。こうした中、2025年12月17日〜19日、「AI x サステナビリティ x 半導体」をテーマに掲げて「SEMICON Japan 2025」が開催されました。
半導体の技術進化と事業拡大で、AIとサステナブルを支える
会期初日には、SuperTHEATERにおいて「グローバル半導体エグゼクティブサミット」が開催されました。そこでは、半導体産業の技術開発と事業展開をリードするグローバルカンパニーのリーダーが登壇し、AI・サステナビリティ・半導体の3つが絡み合い発展していく未来について、それぞれの見地からの洞察が語られました(図1)。
図1 AI・サステナビリティ・半導体の3つが絡み合い発展していく未来を議論した「グローバル半導体エグゼクティブサミット」
出所:筆者が撮影
まず、AIの進化と利用拡大を支える役割を担っているNVIDIAからGeneral Manager, Industrial and Computational EngineeringのTim Costa氏が登壇。AIをフル活用した半導体設計・製造について展望し、AIの使い手としての半導体産業の未来を展望しました(図2)。同氏は、チップ設計の支援や物理法則に忠実なシミュレーション、自律ロボット、工場のデジタルツイン化などが、進化するAIの活用によって高度化されている状況を紹介。最先端のAIが次世代の最先端チップを生み出す、ポジティブ・フィードバック・ループが生まれていることを指摘しました。そして、「既に、デジタルツインとAIエージェントを活用して、半導体製造の現場を自律的に変革し続けていく未来も見えています。これらの成果も半導体エコシステムの新たな進化の始まりにすぎません」(Costa氏)と半導体の進化によってAIがさらに発展していく未来を力強く語りました。
一方、imecでSenior Vice President Compute Technologies & Systems / Compute System Scalingを務めるSteven Scheer氏は、スケーリング則の物理的・経済的限界を克服するための新たな技術戦略について語りました。現在、imecでは、スケーリング側の限界を打破するための手法として、基礎技術の開発とシステムのスケーリング指標を結びつける「XTCO(クロステクノロジー共同最適化)プログラム」を実施しています。XTCOでは、メモリーの密度と管理、計算の密度と効率、電力供給と熱管理、そしてシステムファブリックの4つを柱として、技術開発を推し進めています。講演の中でScheer氏は、「AIのさらなる進化に不可欠な、高い計算能力とエネルギー効率を兼ね備えたソリューションを実現するためには、システムレベルでのスケーリング拡張が重要になります」と強調しました。
図2 半導体産業の技術開発と事業展開を牽引するリーダーが登壇し、それぞれの見地から洞察
左から順に、NVIDIAのTim Costa氏、imecのSteven Scheer氏、Micron TechnologyのScott DeBoer氏、IntelのDavid Bloss氏
出所:筆者が撮影
AIシステム向けでの需要増大と新たな技術導入が急加速しているメモリー分野からは、Micron TechnologyでExecutive Vice President, Chief Technology and Products Officerを務めるScott DeBoer氏が登壇。AIのさらなる進歩に不可欠な、メモリーにおける電力効率の最適化と性能向上を目指した同社の取り組みについて語りました。DeBoer氏は、「AIシステムでの電力効率と帯域幅性能の継続的向上に向けて、今後、先進なメモリー技術と高性能ロジック技術の融合をこれまで以上に加速していく必要があります。HBM4はその最前線にあるこれまでに開発された中で最も複雑なメモリー製品です。今後も前世代を超える革新的進歩が求められ続けることでしょう。NVIDIAなどのパートナーと協力しながら、開発サイクルの短縮や効率向上に取り組んでいきます」としました。
AI向けプロセッサの供給を担うファウンドリの代表としてIntelから、Corporate Vice President General Manager, Foundry Construction and SourcingのDavid Bloss氏が登壇し、半導体業界内での戦略的パートナーシップの重要性について語りました。現在、半導体業界では、単一ダイへの機能統合からチップレットベースのシステム統合へと、チップ開発のパラダイムシフトが進んでいます。こうした動きを背景にして、Bloss氏は、「現在Intelでは、チップ開発の変化に準じて、サプライチェーンとの連携をより強化する方向へと企業文化を変革しています。例えば、電力線をウェハー裏面に移動させる同社の技術である『PowerVIA』では、装置メーカー、材料メーカー、故障診断ツールのサプライヤーとの連携が不可欠でした。半導体チップのさらなる進化には、装置および材料のサプライヤーとの継続的なイノベーションパートナーシップの推進、持続可能かつ強靭なサプライチェーンの構築が重要になってきます」と語りました。
半導体業界が直面する課題と新たな機会を多角的見地から深掘り
最終日には、「グランドフィナーレ 〜半導体サプライチェーンの未来:グリーン化と持続可能性への挑戦」が開催されました(図3)。ここでは、AI活用の拡大とグリーン化への対応を大きなテーマを軸として、強い業界先導力を持つリーダーが、半導体業界が直面する課題と新たに生まれる進化・拡大の機会を多角的見地から深掘り。次時代のビジョンを提示しました。
図3 半導体業界が直面する課題と新たに生まれる進化・拡大の機会を多角的見地から深掘りした、「グランドフィナーレ 〜半導体サプライチェーンの未来:グリーン化と持続可能性への挑戦」
出所:筆者が撮影
マッキンゼー・アンド・カンパニー 日本オフィス パートナーの土谷 大氏は、デジタル産業の成長とサステナビリティへの対応が大きな潮流となる中で、半導体で日本企業が持続的に成長していくために対処しておくべき課題と今後の戦略のポイントについて語りました(図4)。同氏は、米国でのデジタル産業への投資が、今後5年間で日本の国家予算の10倍に相当する見通しに言及。このうち、ハイパースケーラーの投資の5〜6割が半導体投資であると語りました。その一方で、日本の半導体産業の売り上げをドルベースで見ると実質的な成長が見られず。世界市場でのシェアが2001年の23%から5%まで低下している現状を指摘。そうした厳しい状況を直視しながら成長を目指すための戦略として4つのポイントを提示しました。土谷氏は、「1)先端への継続投資、2)需要創出、3)成長市場への取り組み、4)サステナビリティへの対応が重要です。特に先端ノードでは2023〜2030年にかけて50〜60%の需要増加が予想され、7nm以下の先端ノードが18%の年率成長を示すと予測されています」と語りました。
デジタル産業の中でも特にグリーン化に向けた取り組みを重視する企業であるAppleから、Head of Strategy, Environment & Supply Chain InnovationのBessma Aljarbou氏が登壇。グローバルなハイテク製造業が実践する脱炭素化への主要アプローチについて語りました。同社では、2030年までにカーボンニュートラリティを達成するという野心的な目標を掲げ、4つの施策を実践しています。①再生可能およびリサイクル素材を使った製品と製造プロセスの設計、②バリューチェーン全体でのエネルギー効率向上と再エネ活用、③CO2を生み出す活動の回避と削減技術の導入、④残った排出量に対して高品質な自然由来の解決策を活用することです。そして、既に自社内でのカーボンニュートラルは達成済であり、残りの総カーボンフットプリント(CFP)の大部分をサプライチェーン上での排出が占めており、ここには改善の余地、半導体では特に省電力化の余地が多く残るとみているそうです。Aljarbou氏は、「Appleでは2015年以降、炭素排出量を60%以上削減しつつ、収益は65%以上増加させています。半導体業界においても、環境への配慮と事業成長は両立できると確信しています」とサプライヤー各社に積極的な取り組みを呼び掛けました。
図4 強い業界先導力を持つリーダーが登壇し、AI活用の拡大とグリーン化への対応を大きなテーマを軸とした次時代ビジョンを提示
左から順に、マッキンゼー・アンド・カンパニーの土谷 大氏、AppleのBessma Aljarbou氏、Applied MaterialsのGary Dickerson氏、東京エレクトロンの河合利樹氏
出所:筆者が撮影
半導体製造装置における最重要企業の一角であるApplied MaterialsのPresident and Chief Executive OfficerであるGary Dickerson氏は、半導体業界の現状とAIがもたらす変革に対する期待を語りました。同氏は、この産業がまだAIによってもらされる変革の初期段階にあり、今後もすべての関係者に大きなチャンスを生み出していくことを強調。中でも先進的パッケージング技術に関連した領域は新たなビジネス機会を生み出していると指摘しました。具体的な注目点として、新しい基板の採用とその大型化、光インターコネクトの活用を挙げました。その上で同社は、2026年秋にシリコンバレーに新たな研究開発拠点である「EPIC(Equipment and Process Innovation Center)」を開設し、「より緊密な協力と迅速な学習サイクルを通じて、当社と主要な半導体メーカー、パートナー企業から1000人以上の研究者や技術者を集め、次世代技術への早期アクセスを可能にし、商業化のスケジュールを加速していきます」(Dickerson氏)と語りました。
半導体製造装置の雄として並び立つ東京エレクトロンからも、代表取締役社長・CEOの河合利樹氏が登壇。デジタル化と脱炭素化が両立する未来に向けた半導体産業の展望とサプライチェーンの果たすべき役割について語りました。2030年までに約140程度の新たな半導体工場が建設される見通しを示しました。そのうえで河合氏は、「半導体製造では、研究開発・製造コストの増加、デバイス構造の複雑化、製造プロセス工程数の増加、開発期間の長期化、専門人材不足、市場変動、環境負荷(電力消費、水使用、化学物質規制)など、解決すべき多様な課題を抱えています」と、期待に応えるためにはこれまで以上の課題解決努力が不可欠になることも指摘しました。そして、同社で実践している「マニュファクチュリングDX WITH AI & ROBOTICS」という取り組みを紹介。これは研究開発からプロセス立ち上げ、量産運用、アフターサービスまでの個々のフェーズでDXを推し進めていくものです。既に、コーダーデベロッパー、バッチ式熱処理製膜装置、レーザー剥離装置、PVD制膜装置などにおいて、生産性向上、CO2エミッション削減、ケミカル消費量削減、水使用量90%削減などの効果が見えてきていると言います。