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2024年12月6日(金)

成長が期待される半導体産業だからこそ重要性が高まる「DE&I」

株式会社エンライト 伊藤 元昭
 

産官学一丸となって半導体産業の再興に取り組んでいる日本――。巨額投資が次々と実施されています。ただし、いかに豊富な資金があったとしても、時代の要請に応える技術開発やビジネス開拓を推し進める優秀な人材がいなければ、一歩たりとも前進できないのではないでしょうか。

日本企業が半導体産業のチップ製造最前線から遠ざかっていた間、あらゆる産業の労働環境が大きく変わりました。半導体関連産業も例外ではありません。最大の変化は、「DE&I(多様性、公平性、包括性)」を重視した職場環境や人事制度などの重要性が高まっていることです(図1)。なかでも、女性が活躍できる場をいかに作るかが、企業の成長と持続可能性の鍵になっています。時代に即した半導体ビジネスを立ち上げるためには、多様な新しい観点を持つイノベーションの担い手が必要になってきているように感じます。

図1


図1 成長が期待される半導体産業こそ、DE&Iが重要
出所:AdobeStock

 

今後、半導体産業の中で女性が活躍できる環境を作るためには、何をしたらよいのでしょうか。その点を考える上でのロールモデルと成り得るのが、Trinity Indo-Pacific Partners共同設立者 兼 パートナー、元ゼネラル・エレクトリック(GE)ジャパン代表取締役社長の浅井英里子氏です。製造業で働く人材の視点から、また人材を効果的に活用すべき経営者の視点から、半導体産業でのDE&Iをいかに推し進めていくべきか、浅井さんに聞きました。

 

一人ひとりの価値観に合った、やりがいを感じる職場

 「人材一人ひとりが、働くことの意味を満たせることこそが、人材が生き生きと働く職場を作るために重要だと思っています。どのような業界であっても、女性と男性を問わずこの点は変わりません」と浅井さんは言います。

 なぜその仕事を選び働いているのか、その理由や経緯は人によって千差万別です。仕事の内容に没頭している人もいれば、所属企業の文化を好んでいる人もいるし、仕事以外に趣味にやりがいを持っていて生活の糧を得るために働いている人もいることでしょう。そして、仕事に関する知見やスキルを積極的に磨く上昇志向が強い人もいれば、そうではない人もいるはずです。

図2


図2 会社が人材に求める能力や役割は多様
出所:AdobeStock

 

「どのような働く意味を持っていたとしても、それぞれ大いに結構だと思います。会社が人材に求める能力や役割は多様です。持っている力を最大限発揮できることこそが重要です。この会社では、このような意識で働かなければならないといった決まった形があるわけではありません」と浅井さんは経営者の目線から語ります(図2)。

 

自分の能力や可能性、やりがいは意外と自覚していない

その一方で、自分自身の能力や可能性、さらには自分が何にやりがいを感じるかは、意外と本人でさえも気づいていない場合が多いものです。実際、浅井さん自身がそうだったと言います。GEという巨大組織の中で、日本法人のトップとなった同氏ですが、「私自身は三人兄弟の末っ子で、上昇志向がまったくありませんでした。リーダーシップを進んで取りたいタイプでもなく、組織の代表になることなど、微塵も考えたことがありませんでした」と語っています。

上昇志向がなかったと語る同氏が企業トップに就いた背景には、もちろん周囲が認める能力と明らかな実績があったことでしょう。では、元々リーダー気質ではない同氏が、なぜリーダーへと推されるような仕事ができたのでしょうか。

浅井さんは、「その場、その時々に、私の仕事ぶりや人となりを見ている誰かがいてくれた幸運があったように感じています。自分でも気づかなかった可能性を引き出し、チャンスを与え、支援し、導いていただけました。そして、知らず知らずのうちに、どんどん仕事の幅が広がっていき、やりがいを感じるようになり、現在に至っています。20代、30代の時点で『経営を目指せ』などと言われたら、私の性格ならば、おそらく萎縮して辛いと思ったことでしょう。もちろん得意な仕事、最初から好きだった仕事ばかりではありませんが、周囲に導かれるまま仕事に取り組んできました。今はやってみて本当に良かったと思っています」と振り返っています。

GEは、リーダーシップを養う人材育成に力を入れている企業だったそうです。さまざまな研修も充実していたと言います。こうした社風と、組織が人材一人ひとりをキメ細かく観察・洞察する文化が、同社には根付いていたのかもしれません。実際、浅井さんが見てきた同社の他の従業員の中にも「本人も気づかない才能や可能性が開花し、芽生えて花開くケースをたくさん見てきました」と語っています。この辺りに、人材を生かす職場を作り、育てる文化を醸成するためのヒントがあるように感じます。

 

成長は、まずは意思表示から

視点を変えて、働く人本人の目線から見た場合、自分の可能性を最大限まで引き出し、やりがいを高めていくためには、何をしたらよいのでしょうか。この点に関し、「自分の立場や環境、どう感じているかを、常に自分から積極的に情報発信していくことが重要だと思っています。すべてが思い通りになるわけでもないし、思い違いもあることでしょう。それでも、自分のことについて周囲が気づき、理解し、察してもらうためには、まずは自分からコミュニケーションを仕掛けることが大切です」と浅井さんは自身の経験を振り返りながら述べています(図3)。

図3


図3 積極的な意思表示が成長につながる
出所:AdobeStock

 

では、どの程度まで踏み込んで意思表示すればよいのでしょうか。浅井さんは、「私自身は、家庭環境や家族のことなどを率直に上司に話し、たとえ望まれた仕事でも、できないことは『できない』と正直に話すようにしていました。GEの前職ではマイクロソフトに在籍していましたが、同社に入社する際に、小学校低学年の娘がいるため残業も出張もできないことをあらかじめ伝えておきました。会社と合意が取れていることが重要です。やりすごしたり、我慢したりしたのでは、自分も辛いし企業側にも不信感が生まれます。働く人のQoL(生活の質)が高くないとイノベーションは生まれません。また管理する立場からすれば、ハッキリと意思表示してもらったほうがマネージメントしやすい面があります」と言っています。

多くの企業は、自社の人材の能力を育て、最大限まで生かしたいと考えています。効果的な育成・活用に向けた材料となる情報を、働く人の側も積極発信するとよりよい結果につながりそうです。ただし統計的には、男性よりも、女性の方が「失敗したくない」と考えたり、「これ以上重い責任を負いたくない」と考え情報発信を躊躇したりする傾向が高いと言われています。また、女性は生活環境が大きく変動する可能性があるため、20代など若手は男性よりも自身の成長にあせりを感じる面があるのだとも言います。「失敗を恐れないでくださいというのは口で言うのはやさしいのですが、なかなか難しいのが現状でしょう。ここは、女性の成長イメージに合ったスピード感を持った、懸念点を払拭できる支援・制度を、企業側が手厚く用意する必要があるのだと感じています」と浅井さんは語っています。

 

再興に取り組む半導体業界へのアドバイス

日本では、半導体業界が、専門誌だけではなくテレビのニュース報道などでも大きく扱われるようになり、生活者の目線で語れる業界になってきました。政府からの支援も投入され、成長も期待され、将来に向けた夢が描ける業界になってきているはずです。しかし、現代の半導体関連企業が望む、多様な人が憧れを抱いて身を投じる業界になっているのかと言えば、まだそこまでにはなっていないのではないでしょうか。

より多様な人材を集めるためには、「若い世代の中には、『半導体』という言葉自体に古臭いイメージを持つ人が少なからずいると思います。それを『セミコンダクター』と英語で読み直しただけでだいぶ印象が違うかもしれません。そんなことで何が変わるのかと思う人もいるでしょうが、業界に活力ある多様性を取り入れるためには、その辺りから変えていくのも1つの方法だと思います」(浅井さん)。

2024年12月11日(水)から東京ビッグサイトで開催される「SEMICON Japan 2024」では、会期3日目の12月13日(金)に東2ホールのSuperTEATERにて「WOMEN in BUSINESS the FIRST 持続可能な成長へ」を開催します。ここでは、浅井さんがモデレーターを務め、DE&I推進者および半導体業界のトップによる、企業が持続的に成長し競争力を維持するために、どのようにDE&Iを実現し、女性のリーダーシップを支援するかをそれぞれの視点から語っていただきます。浅井さんは、「明日からでも始められる具体的な取り組みを打ち出していきたいと考えています」と語っています。是非、足を運んで、明日の半導体業界の人材像について考えるキッカケにしてみてはいかがでしょうか。

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