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2025年1月7日(火)

SEMICON Japan 2024レビュー 未来を探る視点

SEMICON Japanで再認識、AIユーザーとしての半導体産業の重要性

株式会社エンライト 伊藤 元昭
 

人工知能(AI)の技術が著しく進歩し、その応用領域はますます広がっています。特に、生成AIが実用化して以降、その傾向が加速していると感じている方は多いのではないでしょうか。

こうしたAI技術の進歩は、半導体技術の進化と潤沢で安定したチップ製造能力に支えられていると言えます。クラウド側のデータセンターにおいても、エッジ側のパソコンやスマートフォンなどにおいても、AI処理向けには最先端の半導体チップが適用されています。さらに、AI関連設備投資は極めて旺盛であり、現在の半導体市場はAI応用が最大の牽引力となっていると言えるでしょう。

こうした状況を背景として、半導体業界では、重要応用市場としてのAI動向が頻繁に語られています。その一方で、半導体業界には、AIユーザーとしての側面もあることを忘れることはできません。近年、最先端の半導体チップの設計やプロセス技術や新材料の開発、製造ラインでの高品質・高効率な生産には、高度なAI技術のフル活用が必要不可欠になってきています。最先端のAI技術で、最先端のAIチップを作っていくという構図が、これからの半導体業界の姿であると言えます。

例えば、ラピダスは、2nm世代以降の最先端チップを超短TATで製造するために、「AI生産管理システム」で管理・制御する「All枚葉装置プロセス」と搬送待ち時間を極限まで削減する「新搬送システム」を導入するとしています(図1)。また、設計の領域でも、Googleがチップ設計AI「AlphaChip」を開発し、自社製AIチップ「TPU v5e」などの設計やMediaTekによるスマートフォン向けSoC「MediaTek Dimensity 5G」の設計に適用されるなど、新時代の到来を感じさせる動きが目立つようになりました。

図1


図1 最先端半導体チップの量産ではAIのフル活用が必須に
(左)ラピダスとIBMが試作した2nmチップの試作品、(右)それを超短TATで量産するために必要な3つの技術要素
出所:SEMICON Japan 2024でのラピダスの展示、Grand Finaleでのラピダス代表取締役専務執行役員 オペレーション本部長の清水敦男氏の講演

 

2024年12月11日(水)~13日(金)に東京ビッグサイトで開催された「SEMICON Japan 2024」の会場展示や講演においても、AIユーザーとしての半導体関連企業を対象にした情報開示や提案が相次ぎました。ここでは、「SEMIテクノロジーシンポジウム(STS)」によって企画され、会期2日目に開催された「AI Summit(AI革命による未来)」の中から、半導体業界でのAI活用に関する講演で語られた内容にフォーカスして最新の動きを紹介します。

 

着実に整備が進む、AI活用による設計支援環境とその活用方法

Synopsys EDA Group Vice President, AI and Machine LearningのThomas Andersen氏は、半導体チップ設計でのAI応用について解説しました。

図2 左)SynopsysのAndersen氏、(中)MI-6の入江氏、(右)東京エレクトロンの卜氏


図2 高度なAI技術が、設計、材料開発、製造装置運用に不可欠
(左)SynopsysのAndersen氏、(中)MI-6の入江氏、(右)東京エレクトロンの卜氏

 

最先端の半導体チップには、100億個を超える数のトランジスタが集積されるようになりました。そして、より高性能・低消費電力・小面積を実現すべく、半導体メーカー各社は高度で複雑な設計技術を導入し、膨大な数のトランジスタや配線を適材適所に最適配置しています。この作業は、言わば世界中の人を適材適所に配置して正しく機能させているのに等しいものです。現在の最先端チップの設計が、いかに途方もない作業であるか伺い知ることができます。

一般に、半導体チップの設計では、限られた人員、コスト、時間の中で、目指す機能・性能を持つチップを設計しなければなりません。しかも近年、システムの機能や性能を差異化するために、独自チップや機能の専用化を推し進めたチップの開発が求められるようにもなってきています。さらには、ダイの設計だけでなく、チップレットの最適分割や3Dパッケージングなど新たな設計課題も出てきています。そして、これら高度で複雑な要求を限られたリソースでクリアするためには、生成AIを含む最新のAI技術の活用が不可欠になりつつあります。

チップ設計でのAIの応用範囲は、アーキテクチャ開発からデジタル・アナログ回路の実装に至るチップ設計タスクの最適化/自動化、シリコン・ライフサイクル全域を通じた性能最適化などまで多岐にわたります。Andersen氏は、「チップ設計でのAI活用には、他のAI応用とは異なるいくつか固有の難しさがあります。まず、AIが学習すべきデータを各企業が保有し知的財産権を保有しているため、AIの能力向上が困難になりがちです。また、設計対象となるチップのアーキテクチャや適用製造技術が急速に進化するため、こうした変化に追随可能なAI活用を考える必要があります。ただし、強化学習など新技術の導入効果から、チップ設計に適用されるAIの能力は年々着実に高まっています。さらに、学習済みAIモデルの再利用によって設計を効率化するといった方法論も著しく進化しています」と語っています。

チップ設計のどの部分に、いかなるAIを導入・活用していくかが半導体メーカーの競争力を決める時代が到来しつつあります。

 

日本企業が強みを持つ材料開発で起きている開発手法の大変革

MI-6 COO / CSOの入江 満氏は、AIを活用した半導体向け材料開発のアプローチを解説しました。

これまでの新材料開発は、どちらかと言えば、地道で労働集約的な技術開発領域だったと言えます。成果を得るためには手間の掛かる実験と検証を何度も繰り返し、開発期間が長期になりがちで、開発費用が莫大になる例も珍しくありませんでした。ところが近年、材料・化学メーカーなどの間で「マテルアルズ・インフォマティックス(MI)」と呼ばれる新たな材料開発手法を導入・実践し、研究開発の効率化が進められるようになりました。

MIとは、技術文献に記された情報や実験結果で得た莫大なデータを、AIや機械学習などの先進的な情報処理技術を駆使することで、より効果的で効率的な材料開発を支援する手法です。米マサチューセッツ工科大学とSamsung Electronicsが、次世代全固体電池向けの優れた特性を持つ固体電解質を、従来手法で開発を進める競合企業よりも5倍速いスピードで完了させたことを契機として、材料開発での強みを自負していた日本企業の間でも急速に注目が集まるようになりました。

講演中で入江氏は「これまで材料開発においても、コンピュータが多く利用されていました。ただし、新物質の分子構造などをあらかじめ想定し、それをコンピュータシミュレーションすることで物性を予測して、開発を効率化するといった利用法が中心でした。これが現在、AIなどを活用することで、実現したい新物質の物性を入力すれば、その物性を実現できる可能性がある新物質の構造を逆に導き出すことができるようになってきています」と語っています。

さらに、これまでの材料開発では実験の条件を変えながら地道に試行錯誤を繰り返して、目指す新材料の作成法を探求していました。これが、AIを利用して成功する可能性の高い実験条件を絞り込み、ロボティクスを活用して実験作業自体を自動化できるようにもなりました。加えて、これまでならば実証することがなかったような常識外の潜在的可能性を秘めた条件も探り出し、より有益な新材料を発見できるようにもなっています。

MIの活用によって、半導体材料の分野でもハイペースでのイノベーション創出が進む可能性があります。

 

半導体製造装置の効果的利用には、データサイエンスの素養が必須

東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ データ制御技術部 スペシャリストの卜 惠貞氏は、最先端の半導体製造装置を利用する際、AIを利用して安定的に最大のパフォーマンスを引き出すための手法について解説しました。

近年の最先端の製造装置は、ひたすら高性能を追求した装置の宿命で、些細な稼働条件の変化によって品質や生産性が大きく変動する繊細さを併せ持つようになりました。一般消費者が運転する自家用車ではなく、F1ドライバーだけが運転できるレースカーのような存在になってきているのです。そして、高歩留まりでの安定製造を実現するためには、装置の状態や稼働条件などを正確に把握しながら、リアルタイムでの条件制御を行うことが前提となりつつあります。

講演の中で卜氏は、半導体成膜装置の装置間差およびチャンバー間差の解析に向けた「機差解析技術」と、その適用によるばらつき低減について解説しました。装置に取り付けたセンサーから収集したデータを機械学習させることによって、機差を勘案した最適な稼働条件を導き出すための手法です。あらゆる装置には、構成部品の精度や組み立て作業の微妙なブレの蓄積による機差があります。また、継続的に稼働させていく間の経時変化にも差が生じます。こうした機差が要因となって、たとえ同じ工程、条件で稼働させたとしても、処理後の成膜状況が変ってしまいます。高歩留まりを維持するためには、こうした機差を正確に把握し、生じる差を織り込んで稼働条件を最適化する必要があります。

東京エレクトロンでは、自社装置に最適化した、独自の機差解析技術を開発して機差の予測と稼働条件を最適化できるツールと手法を提供しているそうです。卜氏は、その実現には、「半導体製造装置そのものに関する知見に加え、高度なデータサイエンスの知見やスキルを兼ね備えたエンジニアが求められます。当社では、多くのエンジニアがデータサイエンティストの資格取得に向けて勉強するなど、対応を進めています」と述べています。

現代の半導体産業のエンジニアにとって、AIをはじめとするデジタルツールの使いこなしは必須科目になりつつあります。