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2023年11月29日(水)

次世代車用技術の応用で進化する働くクルマとロボット、空飛ぶモビリティ

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

ロマンのない話で恐縮ですが、研究開発への投資が潤沢な分野は、技術の進化が加速する傾向があります。

例えば、半導体は、時間軸の中で指数関数的に性能が向上し続ける、他の技術分野よりも進化のペースが速い分野です。その進化を裏付けている理由の1つに、スケーリング則に沿って素子を微細化すれば性能向上できる得難い素地があったことは確かです。ただし、いかに筋のよい技術であっても、その潜在能力を引き出すための継続的な研究開発が行わなければ、絵に描いた餅で終わってしまったことでしょう(図1)。
 

図1


図1 潤沢な投資に裏付けられた継続的研究開発が技術の進化を加速する
出所:AdobeStock

 

継続的取り組みには、経営者やエンジニアの意欲と共に、タイムリーで潤沢な資金投入が欠かせません。半導体業界の各社が、継続的に巨額の研究開発投資を実施してきたからこそ、現在の半導体産業があると言えるのではないでしょうか。

 

巨大産業発の革新的技術は、他分野でのイノベーションの種となる傾向

突出して進化している技術分野の成果が、他分野にも応用され、応用先の進化を促すようなことはよくあります。本来、半導体は、コンピュータを進化させるための手段として発展してきた技術です。ところが、その技術を他分野にも応用することで、多くのイノベーションの種をばら撒くことになりました。

たとえ応用先で、多少の「帯に短し、襷に長し」といった機能・性能上の不整合があったとしても、圧倒的な技術のポテンシャルの高さがあれば、新たな価値を創出する要因になる可能性があります。電話網がインターネットに、電話機がスマートフォンに進化したのはそうした半導体応用によるイノベーション創出が成功した典型例と言えるでしょう。

 

産業規模が半導体の5倍の自動車での大変革、他分野に波及しないはずがない

現在、半導体産業と同様に、これまでにない巨額の研究開発投資が、技術革新を目指して投じられている分野があります。“百年に一度”と呼ばれる大変革期の中にある自動車業界です。自動車業界は、CASE(Connected,Autonomous,Sharing&Service,Electric)トレンドに沿って次世代車を開発し、その過程で自動車とは何かというクルマという製品のあり方から再定義。部品レベルから機能や構造を一新して、クルマを再発明しています(図2)
 

図2


図2 自動車業界は、クルマのあり方を再定義し、部品レベルから見直して、その機能や構造を再発明している
出所:Volvo

 

改めて考えてみると、これはすごいことです。自動車産業の世界市場規模は約400兆円であり、半導体産業の5倍以上の規模を誇ります。その超巨大産業が、根底から産業を作り変えているわけです。そこに投じられている研究開発投資は未曽有の額であることは疑う余地はなく、そこで生まれた成果が他産業に及ぼす波及効果は計り知れないものになることでしょう。

 

周囲を把握するセンサー、人と機械の共存を促す情報処理技術が急激に進歩

CASEトレンドに沿ったクルマの再発明が進められる中で、さまざまな新しい部品・材料が開発・投入されようとしています。現在進行中の自動車産業の大変革の中で、いかなる新技術が生まれ、どのような新産業を創出していくのかに注目が集まります。多くの革新的技術の中から、具体的な波及効果が見えてきている2つの技術に絞って技術革新の動きと応用動向を紹介したいと思います。

まずはセンサーです。自動運転車の目として、カメラや超音波センサー、ミリ波レーダー、LiDAR(赤外線レーダー)など、自動車(機器)の周辺環境の様子を検知するための性質の異なる多様なセンサーが数多く利用されるようになりました(図3)。そして今、それらのいずれにおいても半導体技術の進歩の効果を生かした小型化・高精度化が進められています。
 

図3


図3 クルマの周辺に張り巡らせられた多様なセンサーによる検知網
出所:Volvo

 

中でも、新技術の投入が著しいのがLiDARです。当初のLiDARは、パトランプのように回転するミラーで赤外線レーザー光を周囲のさまざまな方向へと照射し、周囲にあるモノまでの距離・形状に関する情報を収集していました。どちらかと言えば機械部品と光学部品の塊でした。これが今、半導体技術と光技術が融合した光電融合技術の代表例となりつつあります。MEMSミラー方式やアレイ化した発光受光素子を連動制御する方式、液晶スイッチを利用する方式などを利用して、半導体のチップサイズにまで縮小できるようになってきました。そして、自動車だけでなく、さまざまな機器に応用し、周辺環境の状態を知る手段として利用できる素地ができてきています。

次は、情報処理技術です。自動運転技術の進歩によって、センサーで検知したデータを解析・洞察して、機器/設備の周辺状況や検知対象となる人やモノの状態を正確に把握し、適切な動作を行うための情報処理技術が急激に進化しています。特に、機械学習や人工知能(AI)に関連した技術の進歩が、ハードウェアとソフトウェアの両面で急激に進んでいます。加えて、稼働時に発生する可能性のある環境の変化や不具合による安全性の棄損を回避するための機能安全に関連した技術も、自動車分野で高度に進化しています。現在の自動運転車では、複数種類のセンサーから得た情報を統合し、状況を多角的に洞察するセンサーフュージョンと呼ばれる技術を使って、走行環境の変化に追随した正確な状況判断を可能にしています。そうした処理に、最先端の高度なAIを適用することで、より正確な判断が下せる方向へと進化しています。

 

人と共存するロボットの進化が、自動運転車用技術の応用で加速

自動運転車向けに開発されている一連の技術は、人と危険な機械を共存させながら活用できるようにすることを目的としたものです。現在、一定出力以上の産業ロボットの多くは、柵の内側で動作させることが義務付けられています。ところが、機械と人を隔離して作業することは、両者の受け継ぎの部分で非効率を生み出す可能性がありました。さらに、周囲の状態を把握できない機械は、生活空間の中に導入することもできませんでした。自動運転社向け技術を応用すれば、機械と人が共存し、協調しながら作業できる可能性が出てきます。その端的な例とインパクトを紹介します。

自動運転車の技術の応用が特に進んでいる分野として、人と機械が共存して作業するロボットがあります。具体的なアプリケーションは、工場で利用する搬送ロボットや人と共同で作業する協調ロボット、さらにはロボット農機やロボット建機、さらには宅配便送り届ける搬送ロボットなど極めて多様です。強調したい点は、これらのロボットが、単に自律運用が可能になっただけでなく、それぞれの産業のあり方自体にイノベーションを引き起こす可能性が出てきていることです。

例えば、自律運用可能なロボット農機は、農機のダウンサイジング化を引き起こす可能性が高いと言われています(図4)。効率的な農業機械というと、米国の麦畑などで利用されている超大型コンバインなどを思い浮かべる人が多いのかもしれません。しかし、本当に効果的で効率的な農作業をするためには、農機は小型化した農機をたくさん導入した方が適しているというのが農学に精通する専門家の意見です。
 

図4


図4 自律的に作業する小型農業ロボットで、多様な作業をキメ細く効率的に実行
出所:内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20180228-1/siryo3-1.pdf

 

なぜならば、小型農機は軽いため、農地を踏み固めて水はけや空気の通りを悪くする心配がないからです。しかも、小型農機の方が、作物の生育状態や農地の状態に合わせてキメ細かく個別対応できるようになります。農薬も肥料も、必要な場所にだけピンポイントで散布できるようになります。また、日本の農地のように不規則な形をした土地での取り回しもよくなります。さらに、作業対象となる農地の広さに合わせて導入台数を調整すれば、複数軒の農家で機械をシェアリングして効率的に運用できます。

そんないいことづくめの農機の小型化がこれまで行われてこなかった理由は、一人のオペレーターがなるべく多くの農地を対象にして作業する必要があったからです。一般に、農作物は、生育状態や農地の状態に合わせて手間を掛ければ掛けるだけ、収穫量が増し、作物の品質は向上します。自律運用可能な農機ロボットならば、オペレーターが不要なわけですから、心置きなく小型化し、個別対応できるようになります。同様の自律運用可能なロボットの実現による、働くクルマのダウンサイジングと業務改革は、建設現場や物流現場、ものづくりの現場などさまざまなところで進む可能性が高いと予想されます。

 

空にも広がるモビリティ活用のシーン

自動運転車向け技術の応用は、空の有効利用にも広がります。日本国内では2022年12月に改正航空法が施行され、無人航空機レベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)飛行が可能になりました(図5)。この法規改正で活躍の場が与えられる身近な場所で利用するドローンも、自動運転車で培った技術なくして実現することはできません。さらに、空飛ぶクルマも同様です。こうした空飛ぶモビリティが身近な存在になるためには、自動運転車の空間把握能力と安全運用技術の応用が欠かせません。
 

図5


図5 2022年12月施行の改正航空法の概要
出所:国土交通省

 

現代のクルマは、既に「走るコンピュータ」と呼ばれる多様で多くの半導体を利用する機械となっています。そして、CASEトレンドに沿って進化する次世代車は、「走るデータセンター」と呼ばれるほどの半導体の塊と化した機械になる見込みです。先に紹介したセンサーも、情報処理技術も、半導体技術の応用にほかなりません。次世代車で半導体需要が喚起されるだけでなく、次世代車用技術の応用先での需要増が、さらなる半導体需要を底上げしていくことになるでしょう。

2023年12月13日~15日に東京ビッグサイトにて開催される「SEMICON Japan 2023」では、空飛ぶクルマや4足歩行ロボットなど、次世代車から発展して生まれる未来のモビリティの実機が展示されます。実際に目で見て、この領域でいかなる半導体技術の活用が広がっていくのか。肌で感じてみてはいかがでしょうか。

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