2022年11月25日(金)
技術開発とビジネス両面で、重要性高まるモビリティ用半導体
株式会社エンライト 伊藤 元昭
自動車産業は、日本の経済活動と雇用を支える基幹産業です。このため日本では、半導体産業の役割も、自動車産業との関わりや貢献を切り離して考えることはできません。2021年には半導体不足によって自動車工場がストップしたり、半導体工場で地震や火災などの被害が出た際には自動車関連企業から復旧作業の応援があったりと、両産業の間には太いつながりがあります。自動車のサプライチェーンの一角を担う半導体産業が、求められるチップを、必要な量だけ、タイムリーに提供できる体制を整えることができるのか。これは、日本の経済界全体の関心事だと言えるでしょう。
車載半導体が、半導体技術のテクノロジードライバーになる可能性も
現在の自動車産業は、“百年に一度”と呼ばれるクルマのあり方と構造を再発明するかのような大変革に取り組んでいます(図1)。こうした中、求められる車載半導体チップへのニーズもまた変化しています。2022年は、2025年に市場投入する車種の開発が一段落した年に当たります。2023年からは、CASE(Connected,Autonomous,Sharing&Service,Electric)トレンドに沿って、さらに進化したクルマの開発が本格化します。
図1 CASEトレンドに沿った大変革の中、半導体の貢献への期待は大きい
出所:AdobeStock
先進運転支援システム(ADAS)の搭載が当たり前になり、将来の完全自動運転車に進化していく過程で、走る・曲がる・止まるといった基本機能から、安全機能、さらには快適機能まで、クルマに搭載するあらゆる機能が半導体によって稼働・制御されるようになっていきます。現時点でも、車載コンピュータ(ECU)を100台以上も搭載した車種がたくさんあります。これから市場投入される、さらには開発されるクルマでは、どのような半導体チップがどの程度搭載されることになるのでしょうか。
単純に考えると、さらに多くのECUが搭載される方向に向かうように感じます。しかし、そう単純ではなさそうです。現在、自動車業界では、クルマに搭載する数多くの電装品とそれを制御するECUの間をつなぐ車載ネットワークのE/E(電気/電子)アーキテクチャを再定義することで、CASEトレンドに沿った将来機能を、効果的かつ効率的に実装していく取り組みが進められています。その動きを端的にいえば、散在していた数多くのECUの役割をより高性能な少数の車載コンピュータに整理・統合し、車載ネットワークの構成をシンプル化。「ドメイン型」や「ゾーン型」と呼ばれるE/Eアーキテクチャへと移行させます。そして、ハードウェアの高性能化と単純化を進める一方で、機能のソフトウェア化を推し進めていきます。
こうした取り組みが進められている理由は、これまでのように電装品やECUを個々にワイヤーハーネスで接続したのでは、電子化や電動化を進める中で、ネットワークの構成が複雑・大規模になりすぎてしまうからです。現時点で既に、大型車ならば1台当たりのハーネスの総延長は約3000m、その重量は50kg〜60kgに達している状態です。さらに、米Teslaのクルマで既に実現されているような、市場投入後にソフトウェアによる機能拡張・更新サービスを提供するためには、ネットワークの物理的構造を一定機能に最適化してしまうと柔軟な機能拡張・更新ができなくなるという事情もあります。
こうしたE/Eアーキテクチャの変化に伴って、求められる車載半導体チップも変わってきます。
現在市場投入されているクルマに搭載されている車載マイコンは、40nmノードから28nmノードのプロセスを中心して製造されています。パソコン用CPUやスマートフォン向けSoCが5nmノードで製造されているわけですから、より成熟したプロセス技術で作られていると言えます。しかし、これからは車載用マイコンとIT機器用チップの間の世代間ギャップはどんどん縮まってくる可能性が高いと言えます。理由は2つあります。
1つは、CASEトレンドの進展によって、より高い計算能力が求められているからです。現在の自動車は、ソフトウェアのコードの行数が1億行を超える規模になっています。Windowsやボーイング787の制御システムよりもコードの規模が大きいのです。これが、2025年には、さらに6倍にまで増大すると予測されています。その他、人工知能(AI)の活用拡大のような、処理対象となるデータの規模を増大させる機能の搭載も進みます。すると当然、それを処理するためにはプロセッサの高速化が必須になります。
もう1つは、散在していたECUの役割が統合され、より少ないチップで、より多くの機能をこなす必要が出てくるからです。これは、前述した車載ネットワークのシンプル化によるものです。これからは、車載Ethernetといった高速なIPネットワークが利用されるようになるため、CPUなどが高性能化するだけでなく、ゲートウェイやブリッジといった車載ネットワーク関連の半導体チップの需要も高まってくることでしょう。さらに、ソフトウェア化する機能が増え、機能間での連携もこれまで以上に密になるため、セキュリティ関連のチップ需要も高まることが確実です。
「SEMICON Japan 2022」では、2022年12月16日10時30分から、会場 東2ホールに設置するSuperTHEATERにて、「自動車と半導体パネル 2030年に向けての課題」を開催します。ここでは、10年先を見据えた車載半導体の要件と課題、またEV用バッテリーの調達、電力などのエネルギー問題をどう解決していくかといったテーマで、経済産業省と自動車業界で求められる半導体について考える立場にいる方々が議論します。
空飛ぶモビリティ時代到来へ、半導体の新規応用市場に
一方、空飛ぶクルマやドローンなど、ほとんど利用されてこなかった広大な空間である“空域”を商用モビリティに開放する取り組みも進められています(図2)。既存の航空機よりもキメ細かな運用が可能で、自動車よりも速く、道路事情に左右されない人やモノを運ぶモビリティの実現が、社会活動の効率化や少子高齢化・過疎化などに伴う課題の解決に向けて期待されています。自動車と同様に、空飛ぶモビリティの実現に向けて高度な半導体の活用に期待が集まっています。
図2 空飛ぶ車やドローンなど空域を利用する商用モビリティの活用が加速
出所:経済産業省
2025年開催の「大阪・関西万博」では、会場となる夢洲(ゆめしま)を中心に、空飛ぶクルマを複数路線で商用運行する計画があります。既に、日本政府は機体の安全基準、運航安全基準、操縦者の技能証明などの制度にかかる検討を開始。「空の移動革命に向けたロードマップ」と呼ぶ工程表を作成して、社会実装に向けた制度や技術開発支援が行われています。矢野経済研究所は、空飛ぶクルマに関連した製品・サービスの世界市場は、2025年時点で146億円ですが、2030年には6兆3900億円、2050年には122兆8950億円と急成長すると予想しています。
一方、ドローンにおいても、改正航空法によって2022年12月から「有人地帯における目視外飛行」に向けた機体認証制度、操縦ライセンス制度の創設と共通運航ルールの適用が始まります。空の産業革命に向けたロードマップの中では、その活用を促進していくための取り組みの工程表が示されています。
SEMICON Japan 2022では、12月14日15時30分から、会議棟609にて、Tech&Biz「次世代Mobilityフォーラム 「空飛ぶクルマ」実現に向けた最新動向」を開催。空飛ぶモビリティの最新動向を識者が解説します。真っさらな新市場となる空飛ぶモビリティが、いつごろ、どのような半導体のニーズを喚起するのか。実感できる絶好の機会になることでしょう。
関連プログラム
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自動車と半導体 パネル
2030年に向けての課題
日時:12月16日(金)10:30 - 11:30
会場:東京ビッグサイト 東2ホール SuperTHEATER
参加費:無料
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次世代Mobility フォーラム
「空飛ぶクルマ」実現に向けた最新動向
日時:12月14日(金)15:00 - 16:00
会場:東京ビッグサイト 会議棟609
参加費:無料