2022年12月1日(木)
半導体戦略の実践を担うRapidus発足、日本の半導体復興の動きがいよいよ本格化
株式会社エンライト 伊藤 元昭
2022年11月11日、日本での次世代半導体の量産を担う新会社「Rapidus(ラピダス)」が発足しました。同社は、日本政府が打ち出す半導体産業やデジタル産業を国家戦略として推進する「半導体・デジタル産業戦略(いわゆる半導体戦略)」の実施シナリオで示された3つのステップのうち、ステップ2で得る成果を社会実装する役割を期待される国策企業だと言えます(図1)。
図1 Rapidusの資本構成と経営理念・基本方針
出所:Rapidus
Rapidusには、ソニーグループ、トヨタ自動車、デンソー、キオクシア、NTT、NEC、ソフトバンク、三菱UFJ銀行という日本の産業界を支える企業が出資社として名を連ねています。旧財閥に端を発するいわゆる企業グループや業界の枠を超えて集まった存在感のある出資社の顔ぶれです。これらの企業を見れば、日本の産業競争力をさらに強化し、持続可能なものにするうえで、同社の役割がいかに重要であるかがわかります。
日本の半導体産業が担ぐべき神輿が明確になった
半導体戦略のステップ2では、日米の連携によって、「Beyond 2nm」と呼ばれる先端技術を用いた次世代半導体技術基盤を整備します。現状、日本では40nm以前の技術でしかロジックチップを製造できませんが、技術開発の照準をBeyond 2nm以降に合わせて一足飛びの進歩を狙う野心的シナリオです。
西村康実経済産業相は、Rapidusのお披露目に先駆けて開いた記者会見の中で、同社に700億円を助成することを表明。同時に、日米が連携しながら半導体生産技術の基礎開発に取り組む研究拠点「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」を2022年内に設立することも明らかにしています。半導体戦略 ステップ2の実践に向けて、量産製造拠点であるRapidusと研究開発拠点となるLSTCは、“クルマの両輪”だと言えます(図2)。
図2 半導体戦略ステップ2の中でのRapidusとLSTCの役割
出所:経済産業省
LSTCには、東京大学や産業技術総合研究所、理化学研究所、東京工業大学、東北大学、物質・材料研究機構(NIMS)、そしてRapidusが参画。こちらもドリームチームと言える布陣で臨みます。半導体の製造で使う最先端の装置と材料の大部分を開発・供給する日本と米国がタッグを組むことで、圧倒的な価値を生み出す研究成果が生まれる期待を感じずにはいられません。
日本の半導体業界では、巨額の設備投資を実施するリスクに耐えられず、半導体事業からの撤退や最先端技術への投資はしないファブライト化が進んだ経緯がありました。このため、半導体戦略が公表された際には、日本国内に最先端半導体技術を用いた量産ビジネスを実践する役割を担う具体的企業が見えず、その実現性が不透明でした。2020年代後半の2nm世代での量産開始を目指すRapidusの発足によって、日本の半導体業界が担ぐべき神輿がハッキリしたと言えます。
半導体戦略 ステップ2、成就に向けて挑むハードルとは
Rapidusの設立によって、日本の半導体産業の復興に向けて、いよいよ本格的に動き出した感があります。もちろん、想定した目的を成就するために超えるべきハードルは多く、しかも高いことでしょう。これから、Rapidusはいかなるハードルに挑むことになるのか、取り組みの見どころを整理してみたいと思います。
まず、日米で開発した最先端のデバイス製造プロセスを、いかに円滑に量産可能な実践的技術へと展開していくかに、高いハードルがあることでしょう。Beyond 2nmの技術のベースは、米IBMのGAA(Gate-All-Around)トランジスタプロセスだとされています。ただし、IBMは2014年にGlobalFoundriesに半導体事業を売却して以降、チップの量産ビジネスを行ってきたわけではありません。研究所レベルの技術と、高歩留まり、高生産性が求められる量産レベルの技術では大きく異なって当たり前です。あの百戦錬磨のIntelでさえ、10nm世代で量産立ち上げに手間取ったことは記憶に新しいかと思います。しかも、最先端技術を用いたロジックチップの量産から10年以上遠のいている日本の半導体業界が挑むのですからなおさらです。
また、最先端のファウンドリービジネスという、日本企業が経験したことのないビジネスを、いかに持続可能なかたちで実践できるかに大きなハードルがあります。日本でも、半導体の受託製造サービスを展開していた例はあります。しかし、TSMCが実践しているような常に最先端の技術での量産を受託する本格的なファウンドリサービスを定常的に提供したことはありません。日本の半導体産業の最盛期は、少品種大量生産の典型であるDRAMの量産で築いたものでした。多品種少量生産を、高効率、短TATで行うことが求められるファウンドリーでは、これまで実践した経験がない洗練されたオペレーション技術が求められることでしょう。
さらに、最先端ファウンドリービジネスを持続可能なものにするところにも高いハードルがありそうです。Rapidus設立の大きな目的として、日本の経済安全保障や産業競争力を支える戦略物資である最先端半導体を安定共有する基盤になることというものがあります。ところが、国内市場だけでは、最先端半導体の製造ラインの構築・維持に要する投資を回収できないことは明らかです。Rapidusの立ち上げには、パイロットラインの構築に2兆円、量産製造ラインに3兆円、合計5兆円を要すると見られています。立ち上げ当初の資金調達も課題となりますが、こうした巨額の資金が掛かる事業を、継続的に政府から支援を仰いで続けることはできないでしょう。技術の進歩に沿って量産に使用する最先端プロセスを更新していくためには、一定量の生産規模の確保、もしくは多品種少量生産でのズバ抜けて高い生産性の実現のいずれかが必要になってきます。ここをどのようにクリアするかは、大きなチャレンジです。
そして、日本の半導体産業の全盛期には不要だった、現代の最先端半導体の量産に欠かせない新たな技術の取得に越えるべきハードルがある可能性があります。具体的には、人工知能(AI)やビッグデータ解析、データサイエンスを活用することによる、歩留まりや生産性の維持、多品種の最適生産計画の策定・実践などがそれに当たります。現代的な半導体生産を実践するためには、これらの技術に関する知見やスキルを持つ人材を集める必要があります。加えて、高品質(情報処理に利用できるかたちの構造化された)な実験データやライン上の操業データを膨大に収集する必要があるでしょう。
半導体戦略 ステップ2、成就に向けて挑むハードルとは
ただし、挑むべきハードルは多いのは確かですが、Rapidusは、それらを乗り越えるための現在点で考えうる最高の布陣・準備がされたと言えるかもしれません。
半導体戦略の下で進められるRapidusの立ち上げでは、世界中の半導体メーカーと共に、サプライヤーの立場から最先端の量産立ち上げに関与してきた日米の装置・材料メーカーの協力体制が得られる枠組みが整えられています。半導体戦略のステップ1として、TSMCを熊本に招致できたことで、世界最高峰のファウンドリービジネスを間近で見られ、それを支えるエコシステムを醸成できる環境が整ったことも順風です。さらに、経営陣として、製造装置分野の重鎮である東京エレクトロン前社長の東哲郎氏がRapidusの会長に、300mmウェーハラインを用いた短TATでのファウンドリービジネスを行うトレセンティテクノロジーズの取締役社長を努めた経験を持つ小池淳義氏が代表取締役に就いています。
2022年12月14日にSuperTEATERで開催される「SEMICON Japan 2022」のオープニングキーノートでは、半導体戦略を仕掛けた甘利 明衆議院議員、Rapidusの東会長、小池社長、そしてLSTCの五神 真理事長、さらにはBeyond 2nm技術を共に開発するIBMからSenior Vice PresidentのDario Gil氏が一堂に会します。そこで、日本の半導体産業の未来を担うキーマンたちが何を語るのか、必聴の議論になりそうです。
関連プログラム
開会式・オープニングキーノートパネル
グローバルリーダーを目指す産官学戦略
日時:2022年12月14日 (水) 10:15 - 12:20
会場:東京ビッグサイト 東2ホール SuperTHEATER
参加費:無料
登壇者:
甘利 明 氏
自由民主党 衆議院議員
自民党 経済安全保障推進本部 本部長
半導体戦略推進議員連盟 会長
東 哲郎 氏
TIA 運営最高会議議長
半導体・デバイス産業戦略検討会議 議長
Rapidus 取締役会長
五神 真 氏
理化学研究所 理事長
Darío Gil 氏
IBM Senior Vice President and Director of IBM Research
小池 淳義 氏
Rapidus 代表取締役社長
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