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2022年12月1日(木)

メガトレンド脱炭素で急成長するパワー半導体、投資戦略が競争力を決める時代に突入

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

半導体産業の中で、際立った急成長を遂げている分野があります。パワー半導体です。世界中のあらゆる産業で脱炭素化が進む中、電力変換やモーター駆動での電力利用効率向上のキーデバイスとして、パワー半導体の需要が急増しています。パワー半導体メーカーからは、「作れば、作っただけ売れる状況」という需要先行の状態が続いています。しかも、大量の電力を消費するデータセンター向け電源や、電動化・自動化が進む自動車など底堅い需要が数多くあるため、高レベルでの成長が安定的に続く可能性が高そうです。

富士経済は、パワー半導体の世界市場は、2022年には2兆3386億円に、そして2030年には5兆3587億円規模にまで達すると予測しています。特に、炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)など、次世代材料をベースとしたパワー半導体の成長が顕著で、2030年には2021年比13.3倍に当たる1兆469億円に達するとみています。

 

相次ぐパワー半導体の300mm投資

パワー半導体は、世界市場の中で、日本企業が高い競争力を維持している分野です。売上高のトップ10には、三菱電機、富士電機、東芝、ルネサスエレクトロニクス、ロームと5社が名を連ねています。

ただし、市場の急成長を受けて、海外勢による事業拡大の取り組みが活発化。日本企業もうかうかしていられない状況になっています。さらに、市場での企業間競争は、パワー半導体デバイス自体の性能を競う段階から、投資戦略を競う段階へと移ってきました。特に近年、市場でのシェア争いの争点となってきたのが、300mmラインへの対応です。半導体産業の再興を目指した取り組みが活発化する日本ですが、ことパワー半導体に関しては、挑戦者ではなく、既存市場でのポジションを防衛する立場にあると言えます。

製造ラインの300mm化で他社の機先を制して大成功したのが、ドイツのInfineon Technologiesです。同社は、300mmラインでの生産を他社よりも圧倒的に早い2013年から開始。当時は、「パワー半導体を300mmラインで製造するなんて、本当に採算が合うのか」と同社の動きを無謀と評価する意見も聞かれました。しかし、積極策は見事に的中。現在、売上高で2位以下にダブルスコア以上(2021年の売上高は48億6900万米ドル)の大差をつけるパワー半導体の絶対王者として君臨しています。そして、同社に対抗して成長市場を獲得すべく、ドイツ Bosch、スイスのSTMicroelectronics、米onsemiなどその他の海外勢も続々と、300mmラインでの製造体制を整えました。ただし、Infineonは、2021年にはオーストリアのフィラハの300mm新工場での量産を開始。さらに2026年稼働を目指してドイツ ドレスデンの既存工場に隣接する300mm新工場の建設も発表するなど、他社の追随を突き放す構えです。
 

図1 2021年に稼働開始したInfineonのフィラハ向上


図1 2021年に稼働開始したInfineonのフィラハ工場
出所:Infineon

 

積極的な海外勢の動きを横目にしながら、2021年末以降ようやく、日本のパワー半導体メーカーも300mmラインでの生産体制を整備する動きを活発化させています。

東芝は、加賀東芝エレクトロニクスの既存棟に300mmの生産ラインを導入して2022年下期に稼働させる計画です。2024年には新たな製造棟でも生産をスタートする予定だと言います。三菱電機も、2025年度までの今後5年間でパワー半導体事業に1300億円を投資することを公表。同社福山工場に2024年度の量産開始を目指して300mmラインを新設するとしています。一方、ルネサスは、2014年に閉鎖した甲府工場に300mm対応ラインを設置して、2024年の稼働を目指しています。また、デンソーは、台湾UMCの日本法人であるユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(USJC)と協業して、USJCの三重工場(旧 富士通 三重工場)で2023年上期から300mmラインでパワー半導体を製造する予定です。これら増強した生産体制を活用し、日本勢がいかなるパワー半導体事業を展開するのかに注目したいところです。

 

2025年市場投入のEV、SiCの採用がブームになる可能性も

SiCやGaNなど、いわゆるワイドバンドギャップ材料をベースにしたパワー半導体でも投資戦略の重要性が高まってきています。

SiCベースのパワー半導体と市場では、2001年に世界初のSiCダイオードを市場投入したInfineonと2010年に世界初のSiC FETを市場投入したローム、自社開発したSiCデバイスで鉄道などの応用市場を拓いた三菱電機と富士電機などが、デバイス技術の開発と応用市場の開拓でリードしてきました。そして、太陽光発電設備のパワーコンディショナー、データセンターの無停電電源(UPS)、EVの急速充電設備、業務用空調、そして電気自動車(EV)のインバーターや車載充電器など、多くの応用を開拓してきました。

ところが、2021年時点で、SiCベースのパワー半導体のシェア1位の座に就いているのは、当初SiC関連での存在感が小さかったSTMicroelectronicsです。金額ベースのシェアで、2021年のSiCパワー半導体市場のシェア40%を占めています。同社が飛躍した最大の理由は、2017年に米Teslaが市場投入したEV「Model 3」の駆動モーター用インバーターに同社製SiC FETが採用されたことにあります。現在のSiCパワー半導体の勢力図は、大口の自動車向け需要の獲得によって決まる段階に入ってきたのです。既に「2025年頃に市場投入されるEVでは、SiC採用車が世界中で大ブームになるのではないか」とする声が聞かれるまでになりました。

STMicroelectronicsは、Tesla向けの大口需要をテコに、製造体制を増強して事業競争力の強化を図っています。イタリアのカターニャ工場でのみ生産していた従来の1拠点生産体制を改め、2021年後半にシンガポールのアンモキョ工場を加えた2拠点体制に拡大。さらに、カターニャ工場に200mmラインを導入し、2023年から稼働させてさらなる増産に対応する計画です(図2)。
 

図2


図2 SiCパワー半導体メーカー各社が、次々と生産体制を増強
(左)STMicroelectronicsのカターニャ工場、(中)Infineonのクリム工場、(右)ローム・アポロの筑後工場
出所:STMicroelectronics、Infineon、ローム

 

また、既に3000社以上にSiCデバイスを供給して顧客数で圧倒するシェア2位(2021年の金額ベースのシェアは22%)のInfineonは、従来シリコンベースのパワー半導体を生産していたフィラハの150mmと200mmラインをSiCとGaN用に転換。さらに、マレーシアのクリム工場にSiCとGaNの生産に特化した新棟を建設しています。ここでは2024年後半から200mmラインでの生産を開始する予定です。

日本勢でシェア4位(2021年の金額ベースのシェアは10%)に食い込んでいるロームも、SiCパワー半導体のビジネスに最大1700億円を投資する計画です。現在同社は、ローム・アポロの筑後工場とラピスセミコンダクタの宮崎工場の150mmラインでSiCパワー半導体を生産しています。2022年12月には、筑後工場内に建設して200mm対応装置を導入したSiC専用新棟を稼働。当初は150mmウエハーでの製造からはじめ、2025年までに200mmウエハーに切り替えるそうです。

 

ファブレスとファウンドリーの水平分業が定着してきたGaN

一方、近年、小型・軽量のACアダプターへの応用を通じて、一般消費者の認知度が高まってきたGaNパワー半導体は、市場拡大に伴って、業界構造自体が変わりつつあります。従来、主要メーカーの事業形態は、チップの開発と製造を共に手掛けるIDMが中心でした。現在では、ファブレスが開発し、ファウンドリーが製造する水平分業型の体制が定着しつつあります。

現在、GaNパワー半導体でのシェア1位は、2014年に設立されたファブレス半導体メーカーである米Navitas Semiconductorです。同社は、米Dell、中国Lenovo、韓国LG Electronics、中国Xiaomiなど、PCやスマートフォンの大手メーカーを顧客として獲得したことで急成長しました。同社は、自社製品の製造を台湾TSMCに委託しています。TSMCは、150mmウエハーのGaN on Si基板を利用した製造技術を保有しており、その技術を活用した製造受託ビジネスを強化しています。そして、STMicroelectronicsとの間で開発・製品化の協力関係を結ぶなど、さらなる事業拡大の布石を打っています。同社は、「高速充電」「データセンター」「太陽光発電用パワーコンディショナー」「データセンターのラック電源」「48V対応DC-DCコンバーター」「EV用車載充電器」への応用が成長するとみているようです。

「SEMICON Japan 2022」では、パワー半導体市場の急成長を支える新たな装置・材料が数多く出品されそうです。また、会場 会議棟607+608で開催するSTSでは、2022年12月16日に「STSパワーデバイスセッション 飛躍するパワーデバイス・技術と応用最前線」を開催します。ここでは、新市場を拓く可能性を秘めた新たなパワー半導体技術に関する最新情報を収集できます。期待の成長市場であるパワー半導体に関する動きを、SEMICON Japanの会場で探ってみてはいかがでしょうか。

関連プログラム

STSロゴ

STSパワーデバイスセッション
飛躍するパワーデバイス・技術と応用最前線

日時:12月16日(金)15:00 - 16:30
会場:東京ビッグサイト 会議棟607+608 および オンライン(Zoom)
参加費:
1セッションにつき
SEMI会員 6,600円(税込)※12月9日(金)までの事前予約割引価格、以降は一般価格
一般 13,200円(税込)