2021年10月12日(火)
これがラストチャンス、日本政府が打ち出す本気の半導体戦略
株式会社エンライト 伊藤 元昭
もはや、デジタル化は、「将来の目標」ではなく、「達成しなければならない必須条件」であり、日本が持続的な成長を遂げるために避けて通ることができないテーマ」。
これは、経済産業省が2021年6月4日に公表した「半導体・デジタル産業戦略」の冒頭文の一節です。同戦略の文言には、今、産業や社会のデジタル化に失敗すれば、日本には輝かしい未来はないという危機感が各所ににじみ出ています。そして、デジタル化を支える3つの基盤を国内で強化・育成することが必要不可欠であることを強調しています。3つの基盤とは、「デジタル産業」「デジタルインフラ」、そして「半導体」です。
これまでとは一味も二味も異なる危機感あふれる本気の戦略
足元に強い半導体チップの開発・生産力を保有することが、あらゆる産業の競争力強化と安全保障の確保に欠かせないことが、世界の共通認識となりました。そして、現在、米国のバイデン政権が半導体の製造・研究開発支援に少なくとも500億米ドルを投じる計画を打ち出し、欧州や中国などもかつてない規模の投資を実施する計画です。
日本では、半導体・デジタル産業戦略の中で、半導体を専門の省庁を持つエネルギーや食料と同様に安全保障に直結するテーマと位置付け、国内での開発・製造の支援に「国家事業として取り組む」と明記しています。実際、今回の公表された戦略の内容を読むと、これまでの産業政策とは一味も二味も違う本気度を感じる点が多々あることに気がつきます。
これまでの政策は、無謬(むびゅう)性を重んじるばかりにリスクを取らず、取り組みも遅く、予定調和的な成果を求め、さらには国内だけに閉じた施策に終始する・・・。技術変革と市場環境の変化が激しい半導体産業にいる人たちの中には、国が推し進める政策の効果に懐疑的な人もいるかと思います。ちなみに、無謬性とは、政府の決定には間違いがないことを前提に議論するという、政策の立案や施行時の原則のことです。
しかし、今回の戦略では、「日米半導体協定などをきっかけとして、成長にブレーキがかかる結果となった」「設計と製造の水平分業を行い、新たな産業構造に移行することに失敗した」「自国のみの自前主義に陥り、世界のイノベーションから取り残されてしまった」と無謬性にこだわることなく、政府の施策も含めて過去の失敗をキッチリと振り返ったうえで、今求められる戦略を論じています。そして、「この機会を“ラストチャンス”だと考え、日本の半導体産業の競争力強化に取り組んでいく」と背水の陣であることを協調しています。
さらに、戦略策定の指針でも、これまでの産業政策には見られなかったアプローチが散見されます。半導体に関連した技術や応用市場の激しい変化を織り込んでアジャイルな戦略を実践すること、デジタル産業基盤の維持・発展は一政府のみでは影響力不足かつ実現不可能であり国際連携を意識した政策が不可欠であることも明記しています。
打ち出された戦略は、「戦略1:先端半導体製造技術の共同開発とファウンドリの国内立地」「戦略2:デジタル投資の加速と先端ロジック半導体の設計強化」「戦略3:グリーンイノベーション促進」「戦略4:国内半導体産業のポートフォリオとレジリエンス強靱化」の4戦略で構成されています(図1)。それぞれの詳細な内容は、公表されている資料を参照していただければと思います。
今後の焦点は、投資の予算化と日本の半導体産業やユーザーであるIT・電子・電機・自動車など各産業の企業の動きになってくることでしょう。国内で半導体のチップビジネスを起こすチャンスであり、いかなる企業の動きが出てくるかに注目が集まります。
図1 戦略1:先端半導体製造技術の共同開発とファウンドリの国内立地
出典:経済産業省「半導体戦略(概略)」