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2020年12月10日(木)

SEMICON Japan Virtual 未来を探る視点4

コロナ禍と米中対立に翻弄された半導体サプライチェーンの今

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

2020年は、世界中のあらゆる産業が、予期せぬ出来事、唐突な政治問題に翻弄された年でした。予期せぬ出来事とは、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行。そして、唐突な政治問題とは、米中対立です。これらはいずれも、世界の中での人やモノの流れを大きく変える出来事でした。

これまで、半導体業界に限らず、あらゆる産業が、サプライチェーンのグローバル展開に邁進してきました。そして、サプライチェーン上にいるサプライヤーやベンダーの多くは、商品価値と生産性の観点から、最も適した場所で開発・生産し、商品が最も求められる地域に向けて供給していました。こうした適地生産・適地供給の体制の動きを、多くの人は必然であると考え、後戻りすることなどないと信じ切っていました。

ところが、コロナ禍と米中対立の影響によって状況が一変。グローバルなサプライチェーンの機能が、大きく損なわれる場面が顕在化しています。こうした影響は、半導体産業にも当然及んでいます。むしろ半導体は、最も大きな影響を受けた産業の一つだと言えるのではないでしょうか。ここでは、2020年に起きた、半導体サプライチェーンの変化を振り返ってみたいと思います。

 

コロナ禍で図らずも加速したデジタルシフト

コロナ禍を機に、生活や仕事、社会活動の場をネット上に移す動きが急加速しました(図1)。リモートワークは、もはやなくてはならない働き方になり、入居していたオフィスを手放してリモートを前提とした職場作りを進める企業も増えてきました。さらに、行政・教育・医療など、これまで規制や商習慣に阻まれてデジタル化が遅れていた業界でも、問答無用のデジタルシフトが進んでいます。数年間掛けて取り組む予定だったデジタル・トランスフォーメーション(DX)が、ほんの数週間で進んだ企業もあるそうです。
 

図1

 

図1 コロナ禍で、生活や仕事の場がデジタルシフト
出典:Adobe Stock

 

こうした急激なデジタルシフトは、半導体業界を含むIT業界や電子業界にとって、ビジネスを飛躍させる千載一遇のチャンスとなっています。実際、IT業界の企業は、2020年のビジネスは絶好調の状態。各社おしなべて好決算を発表しています。さらに、データセンターの処理能力やデータ通信のネットワーク増強の必要性を訴える声も高まっています。世界規模でのデジタルシフトの加速に応えるだけの供給責任を、半導体産業は果たすことができるのかが問われていると言えるのではないでしょうか。

 

半導体産業が先行しているスマートファクトリーが広く波及

オフィス仕事の多くは曲がりなりにもリモートワークが可能でした。しかし、製造業の業務では、リモートワークが困難あるいは不可能なものが多くありました。このため、三密を避けるため、またロックダウンや外出規制などの施策によって、工場の操業に支障をきたした例が世界中でたくさん出てきました。

例えば、日本が誇る工作機産業では次のような例があったようです。密着営業・密着サポートによる手厚い顧客のケアを強みにしている日本企業が多くあります。ここで挙げる工作機メーカーもそんな企業で、製品を納入した際に、経験豊富なサポート要員を顧客の元に派遣して、確実な立ち上げ作業をしてきました。しかし、コロナ禍によって、海外の顧客から、装置を送ってほしいが、サポート要員を派遣しないでほしいという通達がありました。そのメーカーはなすすべがなかったようです。そして、最後には、海外メーカーの中にリモートで立ち上げやサポートができる仕組みを組み込んだ製品があるらしいから、そちらの購入の検討をしているという話しを耳にすることになったそうです。
 

図2

 

図2 コロナ禍であらゆる業種の製造業でスマートファクトリーへの取り組みが加速
出典:Adobe Stock

 

半導体産業は、他の製造業の業種に比べて、工場のIoT化や生産管理のデジタル化が進んでいます。このため、工場の操業に直接人が関与する部分が少なくなりつつあります。コロナ禍の発端となった中国の武漢市でも、半導体工場が停止していた期間は極めて短かったそうです。おそらく、これから半導体産業が先行しているスマートファクトリーの取り組みが、多くの業種に拡大していくことでしょう(図2)。その際、半導体産業で培った技術やノウハウが活用されることになるかもしれません。

 

米中対立で半導体の自国生産強化を目指す米国

次は、米中対立について振り返ってみましょう。米中対立が激化したことで、米国中心のグローバル経済の体制から中国を引き剥がす、デカップリングの動きが活発化しています。半導体は、紛れもなくその最前線にあると言えるでしょう。米国政府による中国Huawei製品の締め出しや中国への最先端半導体の輸出規制など、目に見える争いが繰り広げられています(図3)。

 

図3

 

図3 米中対立が激化し、半導体を含むハイテク産業全体が争いの最前線に
出典:Adobe Stock

 

さらに、米国国内では、政府による自国製造業を目指す動きが加速しています。特に、米中覇権争いの争点となっている半導体の自国生産を推進する策が次々と打ち出されています。これは、米中対立によって国際環境が緊張化し、国防関連の半導体チップを海外で生産している現状に危機感を高めたからです。2020年5月には、州および連邦当局が、現時点で最も高度な半導体チップの製造能力を持つ台湾TSMCの向上を誘致しました。その際、同社に対するさまざまな優遇措置が用意されたと言います。また、2020年6月、対中輸出規制によって巨大な損失を被った米国半導体業界の働きかけで「CHIPS for America Act(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors for America Act)」と呼ぶ法案が提出され、成立に向けて手続きが進められています。CHIPS for America Actとは、半導体の製造工場への投資支出に対する税額控除などを含む法案です。

ただし、米国政府による製造強化に向けた補助金は最大200億米ドル台であり、中国政府が半導体自給自足実現に向けた補助金に比べればケタ違いに少ないのではと見る向きもあります。

ここ数年、中国での半導体自給の動きによって、中国の半導体メーカーは製造装置のよいお客さんになりました。米国の自国生産増強の動き、中国メーカーに利するビジネスの牽制の動きを受けて、世界の中で高い競争力を持つ日本の製造装置メーカーは、米中の間で板挟みとなる状況になっているように見えます。しかし、見方を変えれば、米系半導体製造装置メーカーを含め、世界中の半導体製造装置メーカーが米中のはざまで大きく目立つことを避けたがっている状態だとも言えます。これを機に、商圏や技術協力の範囲などにおける立ち位置を柔軟に舵取りすれば、競争力をさらに強化できる可能性があるかもしれません。
 

 

米中対立の影響は技術開発にも波及

米中対立の影響は、技術開発にも波及しています。

半導体産業を含む電子産業やIT産業では、こと技術開発に関しては米国の力が圧倒的に強く、いかに中国での産業規模が大きくなろうともこの点は変わらないと考えてきました。しかし、客観的な統計を見る限り、そうとも言えない状況になっています。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が2020年8月7日に発表した各国の科学論文数の集計値では、中国の論文数は1990年代後半から急激に増加し、現在では米国を抜いて1位になりました。また、世界知的所有権機関(WIPO)が発表した2019年の国際特許出願数でも、中国が米国を抜いて初めて1位になりました。

現時点での半導体、電子、ITの分野での米中の技術開発に関する取り組みの特徴をそれぞれ一言で表現すれば、“多様性”の強みを生かした斬新な技術開発に優れる米国、“量”の強みを生かしたスピードと力強い社会実装に優れる中国、と言い表すことができるのではないでしょうか。

これまで米中両国の間では、こうしたお互いの特徴を踏まえた上で、相互依存してきたように見えます。例えば、中国における科学技術振興の背景には、海外、主に米国で活躍している優秀な中国人ハイテク人材の存在がありました(図4)。海外で最新情報を入手した多数の中国人が母国に帰国した後、ハイテク関連の技術開発で活躍していたのです。一方、米国も、在米の中国の研究者・技術者を活用してきたようなところがあります。シリコンバレーには、中国から来た人材がたくさん働いています。

 

図4

 

図4 高等教育レベル(ISCED 2011レベル5~8)における外国人学生の出身国・地域と受入国・地域(2016年)
出典:文部科学省の科学技術・学術政策研究所「科学技術指標」

 

デカップリングとは、お互いの関係を断ち切るということです。トランプ政権は、これらの人々のビザ更新の制限に動きました。これを受けて、米国の技術開発力が弱体化し、逆に中国の技術開発力の強化につながることを懸念する声が上がりました。2021年米国では政権交代があります。バイデン政権に変わり、この点がどのように動くかに注目が集まります。

 

半導体サプライチェーンの今を感じるセッションを開催

2020年12月11日から開催される「SEMICON Japan Virtual」では、16日の13時から日本の半導体産業のリーダー2社のトップが登壇するキーノート「半導体グローバルリーダーが語る-Part1:国内リーディング企業の戦略」が予定されています。半導体メーカーの立場からソニーセミコンダクタソリューションズ 代表取締役社長の清水照士氏が、製造装置メーカーの立場から東京エレクトロン代表取締役社長の河合利樹氏が登壇。コロナ禍によって加速した世界のDXを支えるための半導体関連企業の戦略を語ります。

同日15時30分からは、世界の半導体産業のリーダー2社のエグゼクティブが登壇するキーノート「半導体グローバルリーダーが語る-Part2:海外リーディング企業からの低減」が予定されています。日本の半導体サプライチェーンは、半導体製造装置の1/3、半導体材料の1/2以上を世界市場に供給し、コンポーネントや高品質・高性能素材においても重要な供給拠点となっています。米国からは米Intel社の購買トップであるRandhir Thakur氏が、また世界最大のファウンドリーである台湾TSMCからはChief ScientistのH.-S. Philip Wong氏がオンライン中継で登壇。半導体産業のトップランナーたちが日本のサプライヤーに何を望み、何を求めているかを語ります。

また、18日13時からは、グローバルな半導体産業が持続的に発展していくための方策を議論するパネルディスカッション「グランドフィナーレパネル:グローバル半導体産業の持続的発展への課題と提言」が開催されます。経済産業省 商務情報政策局 局長の平井裕秀氏、ウエスタンデジタルジャパン プレジデントの小池淳義氏、JSR 取締役会長の小柴満信氏、東京エレクトロン 取締役会長の常石哲男氏という、そうそうたる方々をパネラーとして招聘。経済レポーターの大里希世氏をモデレーターとして、半導体産業の持続的成長とイノベーションの在り方について、そして今後の企業成長の条件となるであろうESG(環境、社会、企業統治)、特に省エネルギーへの取り組みについて議論を深めます。

コロナ禍で、情報収集の機会が限定されている今、これらのセッションは、激動の半導体サプライチェーンの今を俯瞰し、実感する絶好の機会となることでしょう。