2025年12月5日(金)
ADIS 2025 半導体設計で生み出すビジネスイノベーション
データ転送は電気から光へ、チップ設計での日本の勝ち筋とは
株式会社エンライト 伊藤 元昭
デジタル半導体をさらに進化させていくため、「光電融合技術」の技術開発と量産チップへの適用に向けたエコシステムの整備に注目が集まってきています(図1)。光電融合技術の実用化や量産する情報通信システムへの導入には、光デバイスや光導波路、I/Oなどを作るための新たな材料技術や製造技術の確立と熟成が必須になります。ただし、それだけでは、光電融合技術を広く・効果的に活用することはできません。電気信号で動くデジタル回路とは根本的に技術体系が異なる光電融合回路を、設計する技術の確立、設計環境の整備、設計者の育成も必要になります。
日本は、歴史的に光デバイスや光通信の領域に強く、光電融合時代にはこの領域で世界をリードしていきたいと考えています。ただし、確かに光デバイスの材料技術や広域の光通信の領域での技術開発・ビジネスの実績は豊富です。しかし、これからのビジネスを主導して光電融合ビジネスに勝ち筋を見出すためには、光を活用した情報通信システムの設計ではもう一踏ん張りする必要があるかもしれません。
図1 間近に迫る「光電融合時代」の到来
出典:筆者が作成
電気信号を活用したシステム固有の欠点・問題を光電融合技術で解消
電子回路の微細化・大規模化による、情報処理システムの高性能化は止まることを知りません。その一方で、電気信号を基にした情報処理技術固有の欠点が、システム性能の向上を阻害する要因として悪目立ちするようになってきました。データ伝送に伴う消費電力、信号の反射・干渉、遅延、電磁波障害などの増大はその代表例です。例えば、AIデータセンター向けの大規模チップやデータセンター内の通信では、電気伝送の消費電力が全体の30〜50%を占める状況になっていると言われます。
光電融合技術とは、通信・データ伝送(高帯域・低損失)は光信号で、演算・制御・記憶(高密度・小型・低コスト)は電気信号で処理する、デジタル信号のキャリアを適材適所に使い分けて、情報通信システム全体のさらなる性能向上を図る技術です。データ伝送時のキャリアを電気信号から光信号に代えることで、電子信号固有の欠点・問題を抜本的に解消します。データセンター間の通信には光ファイバーによるデータ通信が主流となってきました。そして、ラック間やボード間への適用も始まっています。今後はチップ間やチップ内のデータ転送にも光通信が求められる見込みです。
既に、最先端のデジタルチップ開発においては、I/Oへの光電融合技術の適用(Co-packaged Optics:CPOと呼ばれています)が始まっています(図2)。いかに高性能なチップを作っても、電気信号に基づくチップ間伝送のままでは様々な問題が発生してしまい、システム全体の性能が頭打ちになってしまうからです。
図2 最先端デジタルチップではI/Oへの光電融合技術の適用が始まっている
出典:Intel、NVIDIA
Intelは光I/Oを量産チップに統合し、NVIDIAは次世代GPU向けに光インターコネクト構想「NVLink-Optical」を打ち出しています。日本においても、「光電融合研究センター」を設置した産業技術総合研究所、高性能・高効率な光回路を構成するための基礎技術を研究している理化学研究所、「IOWN構想(Innovative Optical & Wireless Network)」を掲げるNTT、光電融合向け実装技術などを開発しているRapidusなどによって、国家プロジェクトとして産学官共同で光電融合技術の産業化・社会実装に取り組んでいます。
光電融合技術の適用には、固有の設計技術の習得が必須
光電融合技術を適用した半導体チップを開発・製造するためには、パッケージもしくはチップ内に光回路を形成するための新たな材料技術や製造技術が必要になります。光伝送路をシリコンや窒化シリコン(SiN)で形成するシリコンフォトニクスや電気信号と光信号の相互変換や光信号を制御するデバイスの形成技術、さらには光回路を電子回路と共に集積するためのチップレット技術やパッケージング技術などはその代表例です。
図3 光電融合技術を適用したチップ開発には、固有の設計技術が必要
出典:筆者が作成
その一方で、電気信号に基づくデジタル回路とは異質な光電融合固有の設計技術、すなわち設計ルール、データ伝送の技術標準、設計ノウハウ、設計環境、評価技術なども必要になってきます(図3)。光と電子では、信号のキャリアとしての物理特性が大きく異なるため、設計技術も一新する必要があるのです。このうち設計ルールやデータ転送プロトコルの技術標準は、標準化が進められています。
その一方で、設計ノウハウの蓄積や設計環境の整備などは、EDAベンダーや測定器/テスターのメーカーが提案する技術を導入しながら、システムやチップを設計する企業が個別に自助努力で進める必要があります。その際、重要な点は、光電融合では光回路と電子回路を融合させて、円滑に相互連携させながら一つのシステムとして機能させるための設計技術が必要になるということです。電子回路設計においても、デジタルとアナログが混在したミックスシグナル回路の設計は固有の難しさがあります。光電融合ではそれ以上の難しさがあると考えた方が良さそうです。現在、日本では最先端の半導体チップの開発・製造能力を取り戻す取り組みが進められています。もはや、電気信号のみを扱うチップの開発・製造だけでなく、光電融合時代に適応可能な新たな設計・製造技術の取得が求められるようになってきていると言えそうです。
光電融合技術の応用拡大、活用の容易化に向けて必要な技術、解決すべき課題とは
具体的に、光電融合を適用した半導体チップの開発では、どのような固有の設計技術が必要になるのでしょうか。特に重要な技術を5つ紹介します(図4)。
図4 光電融合技術を適用したシステム固有の設計技術例
出典:筆者が作成
1番目は、光・電子協調設計技術です。光デバイス(変調器・検出器)は、電子回路(ドライバ・TIAなど)によって駆動されます。駆動用の電気信号と制御対象となる光信号の特性は相互依存することになるため、光回路部と電子回路部を個別に最適化してしまうと動作に不一致が生じ、損失増大などの不具合を生み出します。そこで、連携シミュレーション環境が必要になってきます。
2番目は、光導波路レイアウト/光配線の自動設計技術です。光信号は波として伝搬するため、配線となる導波路の曲率・分岐角度・交差距離が最適化されていないと損失や干渉を引き起こします。このため、電子回路のようには単純に配線を自動化することができません。光回路専用の自動設計ツールが必要になってきます。
3番目は、波長・位相制御設計技術です。光信号は波長や位相に情報が載せられているため、温度や屈折率が変動することで、情報の内容自体が容易にズレてしまいます。このため、電子設計では想定しない光のゆらぎへの対処が必要になります。熱光学チューニングや、光導波路上にヒーターを配置して屈折率の制御、検出器でモニターした光信号の状態を基にしたアクティブフィードバック制御などの導入が必要です。この技術は、製造バラつきを吸収して歩留まりを改善する観点からも重要な設計技術となります。
4番目は、光I/Oインターフェースの設計技術です。光電融合チップでは、電気信号と光信号の相互変換が高性能で信頼性の高いシステムを開発する際の要となります。ここでミスマッチや反射が生じると、性能全体が大きく低下します。そこで、変調器・検出器のインピーダンスを整合させる設計、すなわち電気ドライバとの結合最適化が必要になります。さらに、光結合設計、すなわちグレーティングカプラ/エッジカプラ/光ファイバーアレイの光結合効率解析。さらには、チップからパッケージ、その先のファイバーまでの光路を3Dシミュレーションで最適化する技術が必要になってきます。
5番目は、システムレベルでの最適化技術です。光電融合チップは単体で動作するのではなく、電気信号に基づくロジック、メモリー、ネットワークと協調動作して機能します。そこでシステムを正しく動作させるためには、光回路のモデル、電子回路のモデル、制御ロジックを統合した協調シミュレーション環境が必要になってきます。消費電力/熱モデルの統合、光素子の熱ドリフトを考慮した電力最適化設計も必要です。
SEMICON Japan 2025では、光電融合時代に求められる技術の最新情報を提供
本格的な光電融合時代の到来を前にして、EDAベンダーが、光電融合固有のシステム設計やチップ設計に対応するツールや設計、検証手法を続々と投入し始めており、電融合技術の適用を支援するエコシステムが、着実に整いつつあります。光2025年12月17日(水)~19日(金)に東京ビッグサイトでSEMICON Japan 2025と併載される、新世代の半導体設計と検証分野にフォーカスしたサミット「Advanced Design Innovation Summit(ADIS)」の展示会場には、Synopsys、Cadence Design Systems、Siemens EDA、Ansys、Keysight、MathWorks、図研などのEDAベンダーが一堂に会します。
また、SEMICON Japan 2025では、光電融合技術に関連した、材料・製造技術や設計技術に関する講演、セミナーを多数用意しています。同時開催される半導体パッケージングにフォーカスした「Advanced Packaging and Chiplet Summit (APCS)」では、光電融合に特化したセッションも企画されています。光電融合技術の開発、および活用の最前線の動きを知る絶好の機会になりそうです。