2022年1月27日(木)
FLEX Japan 2021カンファレンスレビュー
本格実装と市場拡大期を迎えたFHEの最新動向
SEMIジャパン カスタマーサービス統括部 沢田 信之
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FLEX Japan 2021 概要
FHE (Flexible Hybrid Electronics)とその応用を議論するイベント、FLEX Japanは2017年に初開催され、今年5回目の開催を迎えた。本年は、SEMIのフラッグシップイベントであるSEMICON Japan 2021 Hybridとの初の同時開催となり、東京ビッグサイト 東1ホール内において、展示とカンファレンスの両面から最新情報をお届けすることができた。
FHEは、柔軟性のある材料を用いたプリンテッドエレクトロニクスと既存の半導体やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術などを組み合わせてハイブリッドシステムを構成する技術である。軽く、薄く、曲がる(フレキシブル)という特性があるだけでなく、耐環境性や生産性も高い。市場が急成長しているウェアラブルエレクトロニクスやスマートシステム、IoT向けアプリケーションといった市場にむけたデバイス製造技術であり、デジタルトランスフォーメーションのイノベーション技術の1つになっている。
SEMIは、FHEの有用性にいち早く着目し、FHE産業を促進する団体"FlexTech Alliance"と戦略的パートナー協定を締結し、FHEの振興に力を入れているほか、その技術の進化と普及のための活動をグローバル規模で展開している。現在、FLEX (カンファレンスと展示)は、米国、日本に加え、欧州、中国、韓国、台湾にて開催されており、フレキシブルエレクトロニクス分野をリードするネットワーキングイベントとして定着している。
ここでは、12月16日(木)の午後、同ホール内の特設ステージ「TechSTAGE」で開催されたFLEX Japan 2021カンファレンスの概要をレポートする。
本カンファレンスは、「本格実装と市場拡大期を迎えたFHEの最新動向」をテーマに、国内の専門家による4つの講演が行われた。プログラムチェアは、前田郷司氏(東洋紡)、関根千津氏(住化技術情報センター)、中島伸一郎氏(日本航空電子工業)である。
カンファレンス レポート
1.QoL向上のための、FHE技術とネットワークを結んだ支援ソリューション
広島市立大学 大学院 情報科学研究科
教授 田中 宏和
FLEX Japan 2021は広島市立大学、田中宏和教授による基調講演により開始された。田中教授は、元東芝にて無線通信システム、マルチメディアシステム、ディジタル放送技術の研究開発に従事した後、ウェアラブル生体センサーの開発と事業化、ボディエリアネットワークの研究開発及び標準化に従事。2015年からアカデミアに転身し、教鞭をとる傍ら、引き続き欧州電気通信標準化機構(ETSI)、国際電気標準化会議(IEC)などにてウェアラブルエレクトロニクスに関連する標準化にも取り組んでいる。
田中教授は、まずIoTを実現する一般的なステップの解説を行い、それをヘルスケア分野のIoTプラットフォーム構築とサービスに適用する形にブレイクダウンすることで、ウェアラブルデバイスとネットワークシステムとを結びつけて、具体的な支援ソリューションを実現する上での課題と方策を明らかにした。
IoT(Internet of Things)とは様々なモノに、センサーと通信機能を搭載することにより、点在するモノがキャッチした情報をインターネットを介してクラウドに集積・蓄積し、そのデータを分析することでモノが置かれている状態を正確に把握し、適切なフィードバックにつなげようというシステムである。すなわち情報の取得、情報収集、情報の蓄積・加工・処理、情報の利用の四つのステップが接続されて実現されることになる。
ヘルスケア分野では、ウェアラブルデバイスや家具、寝装品など、ヒトの行動範囲に近い場所に設置されたセンサーが情報取得を担うことになる。情報の蓄積・加工・処理については近年ビッグデータを利用した各種解析事例が紹介されるようになってきている。情報の利用はヘルスケアに関わるサービスそのものである。FLEX Japanの参加者の多くは、情報取得を担うセンサーデバイスの開発者や、ヘルスケアサービスに関わるセンサーデバイスの利用者が多い。この立場から最も解りにくいのが、情報収集の仕組みである。各センサーデバイスから集められた、個々の、個人情報を含む、大量の情報が、どのように整理されて蓄積・加工・処理のプロセスに回されるのか? 田中教授はこの問いに応えるために、御自身も専門家として参加しているIEC/SyC AAL(自立生活支援)にて提案されているユースケースを用いて、この情報収集機能のために、どのような装置、仕組みが必要になるかを、図解で説明した。
情報収集機能を実現するための仕組みを構成する個別の要素については、IEC/SyC AALが全体を俯瞰して主導しつつ、TC100、TC124などIEC内に置かれた各技術委員会にて国際標準化が進められていることが紹介され、標準化が一つのキーであることが示された。現在ウェアラブルデバイスにて取得される情報についてはSmartBAN(Body Area Network)と呼ばれる人体に近接したエリアの通信体系、さらにデータを蓄積・加工・処理するIoTプラットフォームに格納するためのデータをまとめる仕組みとしてのコンテナフォーマットに関する標準化が日本主導で進められている。田中教授は、情報収集の仕組みづくりに関する国際標準化委員会は、専門家として国際標準策定に協力してくれるメンバーに対して開かれており、参加を希望する方は遠慮なく連絡してほしい旨を呼び掛けて講演を締めくくった。
2.モータースポーツ分野におけるスマートテキスタイルの応用
レーシングドライバー
三浦 愛
東洋紡株式会社総合研究所
主幹 前田郷司
2番目の講演は、プロフェッショナル・レーシングドライバーを壇上に招いて、モータースポーツ分野におけるスマートテキスタイルの活用の実例を紹介するという異色の講演であった。
三浦愛ドライバーは、2020~2021年シーズンにて、女性ドライバー限定で行われる自動車レースのタイトルを総なめし、男女混合で行われるフォーミュラ・リージョナル競技において、年間通算2位(女性ドライバーによる過去最高位、なお女性参加は三浦ドライバー一名のみ)を獲得する実力派である。大学時代には太陽光発電による電力で走る電気自動車:ソーラーカーのレースに参戦、FIAの代替エネルギーカップで5回のワールドチャンピオンに輝いている。
講演はFLEX Japan推進委員会の委員長でもある東洋紡の前田主幹のリードで行われ、同社が開発した心電データを取得する衣服型のウェアラブルデバイスを着用して、実際の自動車レース中に得られたデータとその解析結果が紹介された。
F3レース中にドライバーに加わる加速度は5Gを超え、心拍数も全力疾走時と同等の180bpmに達している。レーシングカーにはパワーステアリングなどは装備されておらず競技中の三浦ドライバーは非常に苛酷な状態に置かれていることが理解できた。しかしながら、そのような状況下でも衣服型のウェアラブルデバイスは心電データを着実に捉えており、リストバンド型などの脈波計測では困難なバイタルモニター機能が実現できていることが強調されていた。
講演では、さらにANAIMと名付けられたシステムによる自律神経活動を見える化する試みが紹介された。自律神経は心臓などの生命活動を担う臓器を動かす、本人意思とは独立した神経系であるが、その働きはメンタルからの影響を受けている。高精度な心電データからは、その影響度合いを計算で導くことができ、導かれたメンタルの状態を解りやすく図示するシステムがANAIMである。
三浦ドライバーの場合には、5Gを超える負荷が加わるフォーミュラカーのレース中であってもメンタルは普段の状態と同じ領域にあるが、アマチュアドライバーの場合にはレース中には通常域から外れて、極度のストレスにより自律神経失調状態に近づいていることや、一般社員が人前で初めて発表を行った際の発表前後と発表中のメンタル状態の推移などが紹介された。ANAIMは原理的には、リアルタイムに近い形でメンタル状態のモニターが可能とのことで、今後のさらなる開発と応用が期待される。
最後に三浦ドライバーが、「提供を受けているスマートウェアはデータが取得できるだけでなく、着心地が自然で、エレクトロニクス機器を身に着けていることを意識せずに着用できる。体格や筋力で格差のある自分が、自動車レースの世界で男性と対等に競っていくには、スマートテキスタイルのような新しい技術を取り入れて、科学的データに基づいてトレーニングを行い、自分を高めていかねばならない。来シーズンも積極的に攻めていくので応援をお願いしたい。」との決意を語り、講演を締めくくった。
3.FHEに貢献する超小型・薄型2次電池
日本ガイシ株式会社 研究開発本部
次世代技術戦略室兼 エレクトロニクス事業本部ADC事業部
パワーデバイス部EnerCeraマーケティング推進チーム
グループマネージャー 田中 立
「日本ガイシ、その社名を聞いて真っ先に思い浮かぶのはNGKスパークプラグであろう。」田中マネージャーの講演は、国産の高電圧用絶縁碍子開発から始まった日本ガイシのセラミック事業の歴史から始められた。
日本ガイシは、半導体製造装置やエレクトロニクス製品に使われるセラミック部品等で、SEMICON Japan 来場者には、おなじみのファインセラミックメーカーである。また同時に、電力貯蔵用の大型NAS蓄電池や、安全で、かつ高エネルギ密度が期待できる亜鉛二次電池の開発によって、エネルギ分野でも注目を集めている。その日本ガイシが、何故FHEを狙った小型薄型の蓄電池を扱うのか、そこには、あたかも普通の電子デバイスと同じ様に基板実装できる電源素子を実現したい、という誰もが求め、そして断念していったエレクトロニクス実装上のニーズが存在していた。
田中マネージャーの研究チームは、通常は電極活物質を高分子バインダーによって固めて成形されるリチウムイオン電池の正極を、結晶配向セラミックス板に置き換えることにより、電気伝導を阻害する高分子バインダーを排し、さらに結晶軸をそろえることにより正極物質内の電荷移動の高速化に成功、低抵抗で大容量・大出力、高エネルギ密度を特長とする、これまでにない電池EnerCeraの開発に成功した。
EnerCeraには、ICカードへの実装を意図したパウチタイプと、プリント配線板への実装を狙ったコインタイプの2つの耐タイプがラインアップされている。パウチタイプの厚さは0.45mmと薄く、ICカードに要求される曲率半径10-20mm程度までの曲げにも十分に耐えることができる。またコインタイプはリフロー半田付けによりプリント配線板に直接実装が可能である。
EneCeraの作動温度範囲は-40℃~+105℃と、一般の電池に比べて非常に広い。応用例の紹介では、スマートカード、ワインボトルの側面のような曲面も貼り付けが可能なフレキシブルセンサータグ、電力を必要とするウェアラブルアプリケーションなどが紹介された。
将来的には、OPVデバイスなどの発電デバイスと組み合わせることにより、メインテナンスフリーのIoTデバイス、広い作動温度範囲を活かした苛酷環境で用いられるIoTデバイスなどへの応用、さらには二次電池の可能性を広げることにより、一次電池の廃棄量を削減することにもつながることを強調して田中マネージャーは話を締めくくった。
4.アディティブマニュファクチャリングがもたらすFHE市場の拡大とSDGsへの貢献
エレファンテック株式会社AMC
取締役副社長 杉本 雅明
最後の講演は、2014年の創業以後、急成長中の新進気鋭のベンチャー企業エレファンテックの杉本副社長であった。
エレファンテックは、インクジェット技術を活用したアディティブマニュファクチャリング(AM)の普及・応用分野拡大への挑戦を続けている。講演では、2017年より開始しされているアディティブマニファクチュアリングのメリットとユーザーが量産採用に至った理由、多品種生産、立体印刷、SDGs対応に強みを持つ技術であること、などが語られた。
アディティブマニファクチュアリングとは、銅箔の不要部分をエッチングで溶解除去してプリント回路パターンを作製するサブトラクティブ法とは異なり、絶縁基板上の必要な部分のみに金属を堆積させて回路パターンを作製するプリント配線板の製造方法である。アディティブ法自体は既に半世紀以上の歴史を有する技術であり、原理的にはSDGsにマッチした優れた製造方法であるにもかかわらず、長い間、配線板製造技術のメジャーになることは無かった。その最大の原因は無電解銅メッキの堆積速度の遅さと制御の難しさであろう。
エレファンテックは、製品ターゲットをフレキシブルプリント配線板に絞り、高分子フィルムにナノ銀粒子を用いたインクジェットプリンティングによって回路パターンを形成し、さらに高速無電解銅メッキで配線部分を厚付けするという、最新のプリンテッドエレクトロニクス技術に、古典的な無電解メッキ技術をドッキングさせた斬新な発想で新境地を切り開いた。気難しい化学反応である無電解メッキプロセスも、エレクトロニクスを駆使した自社開発のコントローラーで制御されているという。
フレキシブルプリント配線板であれば、必要以上に配線の厚さを稼ぐ必要は無く、むしろ柔軟性の観点からは導体厚さは薄い方が好ましい。所謂、無電解メッキにおけるシード層はナノ銀粒子の焼結体になるが、表面が銅被膜で覆われているためにハンダ接合が可能となる。
旧来のプリント配線板製造技術では、製品1平方mあたり1.8tonもの水を消費したが、エレファンエックのアディティブマニファクチュアリングによれば、必要な水の量は140kgと、実に1/10以下まで水使用量削減を達成している。
エレファンテックでは、パイロットスケールまでの生産をカバーするAMC:アディティブマニファクチュアリングセンターを東京の八丁堀に、さらに本格量産を行うAMCを三井化学株式会社、名古屋工場内に設置している。
「一般のプリント配線板は製造工程が多いためリードタイムが長い。メッキ工程などが海外に移転している現在では、物流に要する時間が嵩み、さらにコロナ禍がそれに追い打ちをかけている。しかしながら、AMCを国内に有するエレファンテックでは受注から納品までの時間を大幅に短縮でき、それを、このコロナ禍における生産の中で実証してきた。 東京AMCの設置にあたっては許認可担当の役人から『本当に、この場所(八丁堀のオフィス街)でメッキを行うのか?』と繰り返し問われた」と、業界の常識を破る発想で新境地を開拓してきた杉本副社長は笑いながら語った。
半世紀の時代を超えて息を吹き返したアディティブマニファクチュアリングはSDGsの波に乗り、今後のFHE市場、More than Moore時代における一つの象徴的な生産プロセスとなることを予感させる講演であった。