メインコンテンツに移動

2020年11月20日(金)

SEMICON Japan Virtual 未来を探る視点2 Mobility

コロナ禍で変容するCASE、それでもクルマの大変革は止まらない

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

2020年、コロナ禍によって、世界中の自動車産業が少なからず打撃を受けました。世界各地で行われた都市封鎖(ロックダウン)によって、クルマを購入しに出かける人が減り、2020年1年間で2000万台分の自動車需要が世界から消え去るという予測も出てきました。ただし、コロナ禍が定常化し、ウィズコロナ時代の生活を見据えた行動を取るようになると市場の空気が一変しています。いち早くコロナ禍を克服した中国市場では需要が急回復し、トヨタ自動車は2020年度前期(4月~9月)で中国での販売台数が前年比で19%増だったと発表しました。今や「半導体の塊」となったクルマに向けて自社製品を提供している半導体メーカー各社は、安心したことでしょう。

 

新しい生活様式ではクルマを上手に活用

世界の人々は、三密を避けて生活するためには、むしろ移動可能な個室であるクルマを上手に利用した方がよいことに気付き始めたようです。ドライブスルーでのPCR検査や買い物、ドライブインシアターでの映画鑑賞といった、クルマを活用したコロナ対策は新しい生活様式の中で有用であることが分かってきました。

また、世界全体を見渡してみても、三密を避けて生活するためには、むしろ移動可能な個室であるクルマを上手に利用した方がよいことに気付き始めたようです。ドライブスルーでのPCR検査や買い物、ドライブインシアターでの映画鑑賞といった、クルマを活用したコロナ対策は新しい生活様式の中で有用であることが分かってきました。
 

図1

 

図1  新しい生活様式にクルマは欠かせない
出典:Adobe Stock

 

とはいえ、自動車業界の景色は、コロナ禍によって2019年までとは大きく異なったものになったのは事実のようです。量的な影響は少なくて済んだが、質的に大きく変わった領域がそこかしで目立ってきました。ここからは、そんな自動車業界の質的な変化について紹介したいと思います。

 

コロナ禍によってCASEはまだら模様に変容

近年、自動車業界は、「CASE」と呼ばれる4つの変化軸に沿ったクルマのあり方の大変革に取り組んできました。すなわち、ネットに常時接続して常に走行状態を検知し、機能を最新状態に維持するクルマの端末化「コネクテッド(C)」、ドライバーのスキルや状態に頼ることなく安全・快適な移動・輸送を可能にする「自動化(A)」、クルマというモノの提供ではなく移動や輸送をサービスとして提供するビジネスモデル改革「シェアリング&サービス(S)」、地球環境にやさしくなおかつクルマをエネルギーインフラの一部に組み込む「電動化(E)」です。

CASEは、自動車業界や新規参入企業が一眼となって長期間に渡って着実に取り組むメガトレンドです。全くの想定外だったコロナ禍という出来事があっても、その方向性の大筋には変わりはありません。ただし、4つの変化軸それぞれを個別に見ると、コロナ禍によってネガティブな影響を受けた部分と、むしろポジティブな影響を受けている部分の両方があるようです。つまり、CASEトレンド自体の方向性については変わらないが、CASEの各軸それぞれの進みのペースに違いが出来て、まだら模様になってきているといえます。

最もネガティブな影響を受けたのが「S」の領域です。近年、世界中で米国のUberや中国の滴滴出行(DiDi)など、ライドシェアの活用が広がってきました。また、カーシェアリング・サービスも成長していました。ところが、不特定多数の人との接触や使い回しが前提となるこれらサービスは、三密を避ける観点から敬遠されるようになりました。また、そもそも、不要不急の移動を避ける行動様式が広がったこともネガティブに働いています。

一方、最もポジティブな影響が及びそうなのが「E」の領域です。コロナ禍によって世界中の国や地域が大きな経済的打撃を受けました。そして各国政府は、景気対策の一環として、元々長期的視野からの取り組みが不可欠だった環境関連の公共事業、産業振興策、制度の施行を推し進める方向に向かっています。例えば、欧州では「グリーン・リカバリー(緑の復興)」と呼ぶ取り組みを始めています。欧州委員会は、2020年5月に提案した新型コロナからの復興基金「Next Generation EU(次世代EU)」の融資条件に事業の脱炭素化を加えています。そして、ドイツやフランスなどでは、電気自動車(EV)の購入補助金の増額やガスリンスタンドへのEV充電器の設置義務化などを課すなど、素早い動きをしています。

 

物資運送用の自動運転車に追い風

「C」については、コロナ禍の影響がほぼないと見られています。クルマのネットへの常時接続は、今後様々なデータを扱って走るクルマを進化させていくための大前提となっているからです。

他方、「A」については、ネガティブな影響とポジティブな影響が共存している状態のようです。乗り合いバスやタクシーなどを無人運行するための手段として自動運転車の活用を想定していた企業などは、ビジネスモデルに「S」の要素が強いため、ネガティブな影響を受けています。これに対し、物資や荷物を自動運送する分野は、人が人に手渡しする従来の配送に比べて人同士の接触を減らすことができるため、ポジティブな影響を受けます。世界中の人々が巣ごもり状態になり、外出しなくても生活物資が得られる手段として、宅配や出前サービスはとても重要なライフラインとなっており、その効率化と無人化が求められているのです。

そして、配送用ロボットカーなど小型の完全自動運転車の活用を推進する動きが世界中で広がっています。中継基地から物資を求めている消費者に届ける「ラストワンマイル」の物流を無人化することで、人同士が接触しない配送サービスを実現しようとする試みです。例えば、米Starship Technologiesや米Nuroなど、物資輸送用の無人ロボットカーを開発しているスタートアップ各社は、この機に自社ビジネスを拡大すべく、食料や医薬品などを無人運送する試験運用や実証実験を活発に進めています(図2)。また、日本でも日本郵政が2020年10月にZMPの配送ロボットを使って、公道での荷物の配送実験を行いました。

図2非接触での物資配送で注目されるロボットカー

 

図2 非接触での物資配送で注目されるロボットカー
出典:Starship Technologies

 

完全自動運転車の予備軍を既に約100万台市場投入したTesla

コロナ禍の中でも、各自動車メーカーは、着実にCASEトレンドに沿った技術開発、事業開発、製品投入を推し進めています。特に2020年には、自動運転関連の動きが目立ってきています。

 日本では、2020年4月1日に、改正された道路交通法と道路運送車両法が施行され、公道上でのレベル3の自動運転が解禁になりました。レベル3の自動運転とは、いざという時にシステムからドライバーへと操縦権限を移行できれば、ドライバーがシステムの動作状況や周辺環境を常に監視していなくてもよいというものです。これまでの法律では人間がクルマを運転することを前提に作られていましたから、抜本的な部分に踏み込んだ自動運転時代を開く法改正だと言えます。ホンダは、2020年11月、レベル3の自動運転システムを搭載したクルマ「レジェンド」が安全基準を満たしてことが確認され、国土交通省から型式認証を取得したと発表しました。高速道路が渋滞またはそれに近い状態で、速度50km以下での走行などを条件として適用シーンを限定していますが、2020年度中に販売を開始する予定だと言います。

 こうした動きを横目に、自動運転車の普及を急速に推し進める取り組みを実行に移しつつあるのが米Teslaです。同社は、コロナ禍の中でも、CASE関連のビジネス拡大を加速させています。

 2020年10月、同社は、ベータテストに参加する同社車のオーナーを対象にして、「FSD(Full Self-Driving:完全自動運転)」のソフトウェアの配布を開始しました(図3)。完全自動運転車(レベル5)の実現には、ハードウェアとソフトの両方を高度に進化させる必要があります。ハードとしては、走行環境を正確に把握するためのセンサーやそこから収集したデータを解析する高性能なコンピュータなどが、ソフトでは人工知能(AI)を活用した精度の高い認識や安全性を判断ができる高度な技術の両方が必要です。同社以外の自動車メーカーは、自動運転車を市場投入する際に、実現したい自動運転のレベルに合ったハードとソフトをセットにして実装します。ところが、Teslaは2016年以降に市場投入したクルマに完全自動運転対応のハードを既に搭載しており、ソフトを更新すればいつでも完全自動運転を実現できる用意をしていたのです。これは、パソコンやスマートフォンの製品戦略に近い発想でのビジネスだと言えます。
 

図3TeslaのFSDによる走行の様子

 

図3 TeslaのFSDによる走行の様子
出典:Tesla

 

現在、FSDのソフトをインストールすることで完全自動運転車に変更可能な対象車は、多少のハードの入れ替えが必要なモノも含めれば、約100万台も市場投入済みだと言います。これは、かなり恐るべきことで、他社が自動運転車の販売にこれから着手することになるのに、同社はソフトのアップグレードだけで一気に普及させることができます。もちろん、対象車を保有していても完全自動運転車の運用が認められていない国や地域では利用できないし、まだ自分で運転したいから必要ないと考えるオーナーもいることでしょう。しかし、条件が整い、オーナーが望めば好きなタイミングで比較的安価に完全自動運転車が手に入ることのインパクトは大きいと言えます。

コロナ禍を機に、自動運転車の利用価値が再認識されている中、Teslaの仕込みがどのように効果を発揮するかに注目が集まっています。同社のようなクルマの作り方、製品戦略が一般的になれば、より高度な半導体が、より早い時期に求められることになるでしょう。

2020年12月11日から開催される「SEMICON Japan Virtual」では、自動車の近未来を語るキーノートセッション「SMART Mobility 1」が予定されています。自動車の電動化と自動化の最先端を走る日産自動車 執行役副社長の星野朝子氏と2020年始めにコンセプトカーを発表して世界を驚かせたソニー 執行役員 AIロボティクスビジネス担当の川西 泉氏が登壇します。また、テクニカルビジネスセッション「SMART Mobility 2」には、自動運転車の高度化に不可欠なセンサーで世界をリードするボッシュ 代表取締役社長のメーダー・クラウス氏と、CASEを推し進める半導体を開発するミライズテクノロジーズ 取締役の川原伸章氏が登壇します。クルマの大変革であるCASE、そしてコロナ禍によるその変容の動きを知り、これから求められる半導体について考えるための貴重な情報を得る機会となることでしょう。