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2024年2月28日(水)

チップレットの進化・活用、技術分野の枠を超えた連携に期待

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

半導体産業における後工程の重要性は、時が経つにつれて高まる一方です。より付加価値の高い半導体製品を作るため、さらには前工程での微細加工技術の効果を持続可能なものにするため――。後工程での技術革新・ビジネスイノベーションが、強く渇望されています。

後工程で扱うパッケージングや実装などの技術は、半導体チップと応用システムの間をつなぐインタフェースの役割を担っています。そこでの技術やビジネスの変化のインパクトは、半導体チップの進化だけでなく、人工知能(AI)や自動車など応用側の行方にも及びます。

こうした時代背景の中、2023年12月13日~15日に開催された「SEMICON Japan 2023」に併せ、後工程技術に特化した専門展示会「Advanced Packaging and Chiplet Summit(APCS)」が、フロア面積を前年比1.4倍に拡大して開催されました(図1)。半導体の後工程の領域で、いかなる変化が起きるのか。半導体業界だけでなく、ICT業界や電子業界、自動車業界などからも熱い視線が集まりました。
 

図1 半導体業界だけでなく、半導体の使い手からも大きな注目が集まったAPCS


図1 半導体業界だけでなく、半導体の使い手からも大きな注目が集まったAPCS

 

チップレット技術活用の現在地からの課題の明確化と今後の展望

会期の中日である12月14日には、半導体後工程の技術とビジネスのグローバルリーダーが集い、後工程技術の最前線を語り、挑むべき課題と今後の展望を議論するイベント「Advanced Packaging and Chiplet Summit 2023」が開催されました。そこには後工程技術の作り手と使い手、さらには設計ツールベンダーや大学など各分野でこの領域をリードする専門家たちが集まり、専門分野と立場を超えて、それぞれの見解を披露し活発な議論を交わしました。

ここからは、APCS2023の話題の中で、チップレットにフォーカスし、その活用に向けた課題と解決策の指針、さらにはこの領域での日本の方向性について議論したパネルディスカッション「チップレット時代の幕開け:課題を徹底議論!」の様子をレビューします(図2)。各パネリストが語る現状認識と展望からは、チップレット活用に関する多様な角度からの課題が浮き彫りになると共に、課題解決に伴って新たなビジネス機会が生み出される可能性が示唆されました。
 

図2 パネルディスカッション「チップレット時代の幕開け:課題を徹底議論!」の様子


2 パネルディスカッション「チップレット時代の幕開け:課題を徹底議論!」の様子

 

ファブレス半導体メーカーとして、日々数多くの最先端チップ開発に携わっているソシオネクスト、プロダクション・クオリティマネジメントグループ長 執行役員常務の内藤 貢氏は、設計資産(IP)の再利用という観点からのチップレット活用効果を語りました。同氏は、「SoCの構造は、大きく変わりつつあります。スマートフォン用SoCなどではCPUやGPU、DSPなど多様なプロセッサコアを、目的に応じて、必要な数だけ集積するようになりました。こうしたSoCの開発では、チップ全体をすべて作り変えるのではなく、チップレットとして保有している検証済のハード化したIPを集めて開発した方が効率的です。IPをプロセスノードごとに作り変えなくても済みますし、チップレットの形で流通させることで優れた設計資産の再利用が促進されることでしょう」と述べました。

そのうえで、チップレット活用に関する課題も感じているようです。「これまで活用例があるチップレットや、それを載せるインタポーザには、同一企業で企画・設計・生産されたものが利用されています。これは、現時点では開発・製造元が異なるチップレット同士を単純に組み合わせることができないからです。最終的には、ハード化したIPをチップレットの形で販売するベンダーが数多く登場し、円滑に利用可能な技術的・ビジネス的素地を作り上げることが重要になると考えています」と、今後取り組むべき課題を述べました。

同氏の意見を受けて、パネルディスカッションのモデレーターを努めたRapidus、 3Dアセンブリ本部 専務執行役員・3Dアセンブリ本部長の折井 靖光氏は、APCS 2023の登壇者の一人であるZero ASIC、VP of Manufacturing TechnologyのBeth Keser氏が紹介した新ビジネスの台頭を指摘。オープン化したハードIPの流通・再利用を可能にする新たなASICビジネスの取り組みが、内藤氏が語る課題の解決策となり得るかについて問いました。内藤氏は、「強力な規格化・標準化を推し進めれば、解決可能かもしれません。しかしその一方で、チップレットの外形などを規格化して厳しいコスト要求に応えることができるかは疑問です。それでも、Zero ASICが構想している新たなASICビジネスによって、得られる価値が大きくなるという進むべき方向性に関しては同感です」とコメントしました。
 

後工程技術の進化を設計者が円滑に取り込める環境と文化が必須

基調講演の一つの中で、AMD、Advanced Packaging Corporate VP Senior FellowのRaja Swaminathan氏は「チップレットとアーキテクチャの融合を推し進めることができれば、これまで実現できなかった、より高い価値を持つシステムの開発が可能になります」と語りました。そして、その具体例として、自社の最新大規模チップの開発事例を紹介しました。

パネルディスカッションでは、チップレットを利用したチップを日常的に設計し、その効果と課題を熟知している日本アイ・ビー・エム、東京基礎研究所 セミコンダクター チップレット・インターコネクト 部長の森 裕幸氏が、Swaminathan氏の言葉を引用して、AMDで実践していることを他社でも普通に実践していく場合に直面する課題を、設計者の視点から指摘しました(図3)。
 

図3 チップレット技術を、大規模チップ開発での価値向上に利用するための課題を指摘する日本IBMの森氏


図3 チップレット技術を、大規模チップ開発での価値向上に利用するための課題を指摘する日本IBMの森氏

 

同氏は、「一般にチップ設計では、利用する前工程に応じた設計基準(Process Design Kit、以下PDK)に沿って設計しています。その一方で、後工程関連の技術は、システム仕様に合わせてカスタマイズした技術を選択・利用する傾向があります。設計段階で、前工程と後工程では、扱いが大きく異なるわけです。こうした状況は、チップレット活用の重要性が広く認識された今も変わりません。このままでは、チップレット技術の特徴や潜在能力を反映したチップ設計ができないと思われます」と設計現場で感じている課題を語りました。

そして、チップレットの潜在能力を引き出すためには、「まず前提として、EDAツールをチップレット対応に進化させる必要があります。同時に、最新の後工程技術に対応した設計基準(Assembly Design Kit、以下ADK)を策定し、現在のチップ設計の文化を、それを基に設計していくものへと変えていく必要があると考えています。PDKとADKが噛み合って初めて、最適化したチップレット活用が可能になることでしょう」と述べました。

では、チップレット技術を円滑に活用していくための前提として挙げられたEDAは、現時点でどのような方向に進化しているのでしょうか。後工程向けEDAに注力してツールの開発・販売をしてきた図研、技術本部 専務執行役員 CTO、 技術本部長の仮屋 和浩氏は、「私たちは、米国企業が強い前工程で作るチップを設計するためのEDAとは別の領域である、後工程以降のEDAに注力してきました。異種の回路・製造技術で作ったチップレットを同じインタポーザ上に3D搭載して、システム全体の機能・動作を検証できる、これまでになかった設計環境を開発・提供していくための取り組みを進めています」と言います。

さらに同氏は、「これまでにも、プリント配線基板を対象にしたEDAツールでは、異種のチップや電子部品を混載活用してシステム全体を機能・動作させるための技術が確立されていました。しかし、異種チップレットを利用したSoCの設計などでは、ルールチェックの対象の規模がケタ違いに増えるため、これまでとは違った困難に直面しています。また、前工程で作るチップレットを設計するEDAツールとの連携も不可欠です。半導体チップ設計に向けた米国企業を中心とするEDAベンダーとの密に連携しながら、こうした要件を満たすためのEDAの実現に挑んでいます」とベンダーの枠を超えた連携強化の重要性を語っています。

実際、同社はSynopsysとの連携を強めています。そのSynopsysは、2024年1月に約350億米ドル(約5兆1500億円)で多様な物理現象のシミュレーション技術で業界をリードするANSYSの買収を発表。チップレット時代への要求に応える体制を強化しました。

これまで半導体関連のEDAの領域では、日本企業の存在感は決して大きいとは言えない状況でした。しかし、これまで後工程以降の技術を扱うEDAで技術を蓄積してきたことが幸いし、チップレット時代の設計環境の進化をリードできる可能性が出てきています。ここには大いに期待したいところです。
 

日本企業は後工程での競争力が高いと言われるが本当か

チップレットの活用が広がることで、これまでにも増して高度かつ精緻、複雑なテスト技術の重要性が高まりそうです。チップレットを活用して大規模チップを開発し、そこに不具合が発生した際には、チップレット内部に問題があるのか、それともインタポーザ上の配線や接合に問題があるのか、原因を明確に区別して対策を施す必要があるからです。少なくともボード上でのテスト環境は、これまで、こうした要求に応えられる状態ではありませんでした。

テスト技術を研究している愛媛大学 大学院理工学研究科 客員研究員の亀山修一氏は、「これまでパッケージングされた半導体を扱ってきた機器の実装技術者は、チップは完全動作することを前提と考えていました。チップレットでの活用では、パッケージングする前でのKGD(known good die)で高い歩留まりを保証しておくことが重要になります。ところが、現在のテスト環境は、微細構造で出来上がっているダイを対象にしたものにはなっていません。このため、PGD(pretty good die:大体正しい)状態にあることを保証することしかできません。テスターやプローバーの技術のさらなる進化が必須になります」と語りました。

加えて、「チップレットをインタポーザ上に実装した後も、接続をテストする3D向けのバウンダリスキャン技術、さらには単に物理的に接続しているのを検証するだけでなく、システム全体が想定通りに機能できることをテストするツール、インタポーザ上の配線不良などをリペアする技術なども求められています」としています。テストの領域で競争力の高い企業が数多く存在する日本には、時代の要請に応える取り組みの加速が求められています。

テストに限らず、一般に後工程の分野では、製造装置と材料共に日本企業の競争力が高いと信じられています。しかし、imecで前工程の技術を使って後工程に技術革新をもたらすハイブリッドボンディング技術の開発に携わっていた横浜国立大学 大学院 工学研究院 准教授の井上 史大氏には、少し違った状況が見えているようです(図4)。

同氏は、「前工程用の装置メーカーが、後工程用のボンディング装置などを開発するようになりました。そして既に、前工程側と後工程側のそれぞれからの技術開発がせめぎ合う状況が生まれています。そして、これから求められる技術要件に応えるナノレベルでのパーティクル管理などの点では、日本企業が前工程側からの技術提案に比べて遅れを取っているように見えます」と指摘しています。
 

図4 前工程用の装置技術が後工程の領域で高い価値を持つ可能性を指摘する横浜国立大学の井上氏


図4 前工程用の装置技術が後工程の領域で高い価値を持つ可能性を指摘する横浜国立大学の井上氏

 

そして、具体的な例として「現時点では、チップレットをインタポーザ上にボンディングする際には、インタポーザが形成されたウエハー表面でダイを接続しやすくするための活性化処理を施した後に、一つひとつダイを運んで接続しています。これは従来の後工程技術の延長上にある技術だと言えます。しかし、チップレットを積層する場合には、接続工程を進める途中でウエハー表面が経時変化して失活し、歩留まり低下を招く可能性があります。現在の方法では、工程の後の方に接続したものの状態が十分わかっていないのです。信頼性と歩留まりを高めるには、これまでとは異なる発想の後工程技術で対応していく必要になってきます。前工程と後工程の融合では、パーティクルを徹底管理する前工程技術を理解・活かしながらチップレット固有の技術を確立していくことが極めて重要になると考えています」と指摘しました。

 

後工程での光配線への対応を考える時期になりつつある

パネルディスカッションの最後には、折井氏が、将来の光配線に対応した技術開発についてパネリストに意見を求めました。日本政府が推し進める「半導体・デジタル産業戦略(半導体戦略)」は、第1ステップ「半導体生産基盤の緊急強化」、第2ステップ「次世代半導体技術基盤の確立」、第3ステップ「将来技術基盤の実現」の3ステップで進められています。このうち、第3ステップでは、光電融合技術が求められる時代において、日本が世界をリードするポジションを取る目標を掲げています。後工程における最先端の光配線技術の確立と日本でのその保有は、こうした戦略を具現化するうえでの必要条件になります。

内藤氏は、最先端チップの開発に携わっている肌感覚から、「チップ内でのデータ転送が224Gbpsになるまでは、銅を使った金属配線で対応できるのではと考えています。ただし、後工程技術の開発は進歩が著しく、光配線が必要になってくるしきい値は今後変わってくるかもしれません」と語りました。実際、講演に登壇したIntel、Vice President, Substrate Technology Development Integration Assmebly Test Technology DevelopmentのJohn Guzek氏は、「ガラス基板をインタポーザに適用すれば、448Gbpsまでは金属配線で対応できます」と語りました。それでも、内藤氏は「ガラス基板を導入しても長い距離を金属配線でつなぐことはできないことでしょう。光配線と金属配線をいかなる状況でどのように使い分けていくのか、最適な落とし所を見極める時期に来ているのかもしれません」と述べました。

後工程技術は、多様な分野の技術が折り重なって出来上がります。しかも、現在前工程との融合が進み、新たな発想からの技術の開発・活用が求められています。折井氏は、「半導体と応用機器をさらに進化させるうえで有効な技術であるチップレットを活用していくためには、多様な業界間で相互協力して課題に取り組んでいくことが重要になります」とパネルディスカッションを総括しました。