2022年10月20日(木)
「半導体戦略」の仕掛人たちが再集結、その成果と課題を議論
株式会社エンライト 伊藤 元昭
経済産業省は、2021年6月4日、日本の半導体産業の再興を目指して、「半導体・デジタル産業戦略(以降、半導体戦略)」を公表しました。日本経済の持続的成長に欠かせない産業や社会のデジタル化の実現を支えるため、さらには経済安全保障の観点からも、国内での最先端半導体の開発・製造が必須になると判断。その整備を推し進める指針とシナリオをまとめたものです。
戦略の公表から1年が経過しました。そして、早くも具体的成果が見え始めてきました。ここまで打ち出された施策からは、半導体戦略の実践に向けた政府の迷いなき本気が感じられます。ここでは、半導体戦略のここまでの経過を振り返り、さらにはこれからの日本の半導体産業の行方を展望します。
3ステップで進める、半導体産業の競争力醸成
経済産業省は、2021年11月15日に開催した「第4回 半導体・デジタル産業戦略検討会議」で示された半導体産業基盤緊急強化パッケージに準じて、半導体戦略の3ステップでの実行シナリオを示しました(図1)。
図1 日本の半導体産業復活に向けた戦略の実行シナリオ
出所:経済産業省
ステップ1では、「IoT用半導体生産基盤の緊急強化」に注力。自動車や産業機器など日本の主要産業で利用する半導体の生産基盤確保を目的にした施策を推し進めます。2030年までの間に、国内で完結する半導体の開発・生産に必要なサプライチェーンの整備を目指して、他国と遜色ない支援とそれを支える法的枠組みを構築し、複数年度にわたる継続的支援を行います。ステップ1で整備する工場は、足元の主要産業の製品製造に必要な、28nmノードの車載半導体、パワー半導体、アナログ半導体といった製品の製造に向けたものが中心になります。
日本の主要産業の競争力を維持・強化していくためには、必要な半導体を、必要な時に、必要な量だけ安定調達できるようにしておく必要があります。「半導体は海外の有力メーカーから調達すれば済むのでは」と考える人もいるかもしれません。しかし、そう簡単にはことは運びません。例えば、ファブレス半導体メーカーなどの最先端チップの製造を一手に引き受ける台湾TSMCにとって、日本向けの売り上げシェアは約4%にすぎません。同社のビジネスモデルでは、事業を効率化するために大量生産が見込めるチップの受注を優先する必要がありますから、日本のニーズへの対応が後回しになる可能性があります。このため、需要に応じてタイムリーかつ柔軟に対応可能な、小回りの利く工場が国内に必須になります。
次のステップ2では、「日米連携による次世代半導体技術基盤」の確立を推し進めるこことで、先端技術開発でも国際競争に負けない体制作りを目指します。より微細化を進展させた前工程や3Dパッケージなど先進的後工程、さらにはSiCやGaNなどを含む次世代パワー半導体などの技術開発を加速させます。加えて、日本では、技術開発の段階では世界をリードしていても、社会実装や事業化で海外に遅れを取る例が多いことを念頭に置き、社会実装を強力に推し進めていきます。
そして、ステップ3において、「グローバル連携による将来技術基盤」を確立して、2030年以降の半導体業界にゲームチェンジをもたらす技術革新の開発を目指します。具体的には、システム間、基板間、チップ間の配線での遅延や消費電力の増大を、日本に強みがある光エレクトロニクス技術を発展させた光電融合技術によって解消。さらなるシステム性能の向上や低消費電力化を実現し、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)を支えます。
本気度が伝わる半導体戦略の実践
政府の半導体戦略が打ち出された時、日本の産業界、半導体産業にいる人たちでさえも、その真意と真価を計りかねていたように思えます。無理もありません。1980年代後半からの日米半導体戦争を境にして、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった国内半導体産業に急ブレーキが掛かる状況を多くの人が体験。2000年代に入って以降、一部のメモリーメーカーを除き、日本の半導体チップ製造産業は20年以上にもわたって長期低迷し、その間に伝えられるニュースは、リストラや工場売却といったものばかりだったからです。ある意味、そんな状況下で、日本の半導体装置・材料産業の国際競争力が維持できたことの方が奇跡に近いように思えるほどです。
ところが、半導体戦略のステップ1やステップ2に該当する具体的施策が矢継ぎ早に実行に移され、その内容を見るにつれ、政府の本気度を多くの人が感じるようになりました。
まず、つくばへのTSMCの最先端後工程技術の研究拠点「3DIC研究開発センター」、さらには熊本への同社半導体の新工場の誘致を完遂したことに驚きが広がりました。日本に後工程の先端技術を保有する企業が多いことから、3DIC研究開発センターの設置は想像できたとしても、生産コストが高くなりがちで、地場市場での大量需要が計算できない日本にTSMCが製造拠点を置く意義が感じられなかったからです。そもそも、従来の日本政府ならば、海外企業を自国の産業振興策の中心に据えるようなことはなかったように思えます。それでも誘致に成功した背景には、半導体産業復興を目指す、日本政府のなりふり構わない働き掛けがあったことが透けて見えます。そして、ソニーグループやデンソーなど、同工場には日本企業も参画、日本企業による半導体チップ生産を盛り上げていく糸口もつくりました。
TSMCの熊本工場について、「20nmノードまでの成熟した製造技術に対応した工場であり、最先端工場ではない」として、日本にとっての意義を疑問視する意見もあります。しかし、その見方は短絡的ではないでしょうか。現在、日本国内で製造されているロジック半導体は、40nmノードが最新であり、3nmノードのラインが立ち上がろうとする世界のレベルと比較すると、何と約8世代分も遅れていることになります。40nmから3nmの間には、チップ上のトランジスタの構造が立体化といった、大きな技術革新が何度にもわたって起きています。研究レベルの試作ならいざしらず、量産工場向け生産技術を、いきなり自力で立ち上げられるはずがありません。ベテランエンジニアにはリハビリの、若いエンジニアには実践的な業務を学ぶOJTの場が必要です。TSMCの熊本工場はこうした求めに応える場であり、TSMCは得難い教師だと言えます。
また、2022年5月には、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に6170億円の基金を置き、経産大臣が認定した特定半導体の生産施設の整備を対象にして助成金を交付することも決定。半導体産業に対する助成金の規模としては、従来とはケタ違いに巨額になりました。単に技術研究を支援するだけでなく、社会実装を支援できる規模になったということです。加えて、萩生田光一経済産業大臣(当時)と米国のジーナ・レイモンド商務長官との間で次世代(2nmノード以降)の半導体技術を日米共同で開発することで合意しました。
戦略完遂の鍵は人材育成か
では、政府が描く半導体戦略を成就するためには、何が必要になるのでしょうか。
半導体戦略が世に出る以前の2020年12月、「SEMICON Japan Virtual」では、「オープニングパネル 産官学トップ鼎談:豊かなデジタル社会構築への課題と提言」と題して、半導体戦略の策定に尽力した甘利明衆議院議員、学会からは五神真東京大学総長(当時)(現在:理化学研究所 理事長)、産業界からは東京エレクトロン元会長・社長の東哲郎氏(現在:TIA 運営最高会議議長、半導体・デバイス産業戦略検討会議 議長)が集い、日本の半導体産業の将来ビジョンについて議論しました(図2)。その際、甘利衆議院議員は「資源もない国土も狭い日本では、知恵によって、ゼロから価値を生み出す政策が何よりも大切」、東氏は「日本には、半導体材料では55%、製造装置では33%のシェアを占め、半導体メーカーを支える盤石の基盤があります」、五神氏は「日本には、半導体の基盤技術を熟知する産業界のリーダーが数多くいます」と語り、人材の強みを中心に据えた半導体産業再興の重要性を強調しました。
図2 2020年12月「SEMICON Japan Virtualのオープニングパネルに参加された方々
甘利明衆議院議員(左から2番目)、五神真 東京大学総長(当時)(現在:理化学研究所 理事長)(左から3番目)、東京エレクトロン元会長・社長の東哲郎氏(現在:TIA 運営最高会議議長、半導体・デバイス産業戦略検討会議 議長)(左から4番目)。モデレーターは、小谷真生子氏(左から1番目)。
半導体戦略が3ステップで進める戦略的な意図には、人材育成に要する時間も想定していることでしょう。2022年12月14日にSuperTEATERで開催される「SEMICON Japan 2022」のオープニングキーノートでは、甘利氏、東氏、五神氏が再び集結。さらには日米の協力体制の強化策について米IBMからSenior Vice PresidentのDario Gil氏とウエスタンデジタル 名誉会長の小池淳義氏も加えて、半導体戦略のこれまでの経過と成果を振り返り、日米で協力して取り組む今後の展開と課題について議論します。半導体産業の未来を見通す上で、見逃せない議論になりそうです。
関連セミナー
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開会式・オープニングキーノートパネル
グローバルリーダーを目指す産官学戦略
日時:2022年12月14日 (水) 10:15 - 12:20
会場:東京ビッグサイト 東2ホール SuperTHEATER
参加費:無料
登壇者:
甘利 明 氏
自由民主党 衆議院議員
自民党 経済安全保障推進本部 本部長
半導体戦略推進議員連盟 会長
東 哲郎 氏
TIA 運営最高会議議長
半導体・デバイス産業戦略検討会議 議長
Rapidus 取締役会長
五神 真 氏
理化学研究所 理事長
Darío Gil 氏
IBM
Senior Vice President and Director of IBM Research
小池 淳義 氏
Rapidus
代表取締役社長
特集記事:「半導体戦略」の仕掛人たちが再集結、その成果と課題を議論