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2023年12月12日(火)

DX実践のトップランナーである半導体業界、今求められている人材像を探る

株式会社エンライト 伊藤 元昭

 

今、あらゆる業界・業種の企業において、デジタル技術の活用による業務改革「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が進められています。製造業も例外ではありません。業務効率の向上と商品やサービスでの新たな価値創出を目指して、DXによる開発や生産の現場の仕事の進め方の改革やスマートファクトリの構築が行われています。

DXと半導体業界の関わりでは、DXの実践に欠かせない情報通信システムの構築に伴う半導体需要の増大がよく語られています。その一方で、半導体産業自身が他の業界に先んじてDXを実践してきた業界であることを忘れることはできません。

半導体工場では、製造工程の中で生まれる膨大なデータを収集・解析し、その結果を生産効率や品質の向上、TAT短縮などに利用することが日常風景となっています。元々、半導体産業は、工場のクリーンルーム内になるべく汚染源になり得る人を入れたくないという特殊な事情から、製造工程でのロボティクスを活用した自動化やデータ活用による自律化に積極的な業界でした(図1)。このため、数ある製造業の中で、半導体産業はDX実践のトップランナーとなっていると断言できます。そして、こうした製造や開発の現場でのDX実践こそが、日本の半導体産業が最先端ロジックチップの製造から遠ざかっていた20年間に、最も変化した部分だと言えるかもしれません。
 

図1


図1 ロボティクスによる自動化やデータ活用による自律化が進む最先端の半導体工場
出所:Intel

 

現在の半導体産業は、もはや熟練したエンジニアの経験とセンス、勘が工場運営や開発の成果を大きく左右する状況ではなくなりました。日本の半導体産業の全盛期だった1990年代までを振り返れば、他業界に比べればデータ活用が進んではいたものの、属人的な知見・スキルに頼った業務が多く残っていたと言えるのではないでしょうか。こうした背景を鑑みれば、日本の半導体産業再興に向けて、半導体産業の全盛期を支えていたエンジニアとは異なる、高度なDXを実践するための人材が求められることは明白です。今回は、今、日本の半導体産業が獲得・育成すべき人材像について考えてみたいと思います。

 

約20年の時を経て再興を目指す日本の半導体産業が求めるべき人材とは

最先端ロジックチップの製造体制を再び構築するうえで、最新の製造プロセスと装置、材料などに関する知見を持つ人材を揃え、再育成することが重要であると考える人は多いことでしょう。もちろん、2nmノードで導入されると言われるGate All Around(GAA)構造のトランジスタを作る技術や、日本企業が初めて導入することになるEUV露光の使いこなしなどといった領域に精通したエンジニアは確実に必要になります。

ただし、こうした領域の人材の確保に関しては、比較的心配が少ないと言えるかもしれません。国内に、世界をリードする半導体メーカーと連携しながら最先端技術を開発・提供している装置・材料メーカーが数多くあるからです。もちろん、装置や材料のメーカーだけで半導体工場を立ち上げ、運営してくれるわけではないので、半導体メーカー側でもエンジニアを集め、育てる必要はあります。それでも、最新技術に関する知見とスキルを保有し、世界をリードする半導体メーカーに揉まれながら量産用技術として具現化できる企業のエンジニアが周りにたくさんいる状況は心強いと言えるでしょう。

また、GAA関連といった最先端デバイス技術に関しても、米IBMと共同で日本の大学・研究機関・企業が2nmノード以降のプロセス技術を開発できる体制が構築されたことで展望が開きました(図2)。IBMは長年にわたって先端半導体の研究開発を継続しており、半導体メーカーとの協業経験も豊富です。技術を学ぶ立場の日本の研究者・エンジニアも研究開発の第一線で活躍する人材を配置しており、この領域での不安も比較的少ないのではないでしょうか。また、EUV露光の使いこなしに関しても、先端プロセス開発で世界最先端を走るベルギーimecがRapidus(ラピダス)とパートナーシップ契約を交わしたことで、その協力を得て、人材育成に取り掛かることができます。imecはオランダASMLとのパートナーシップの下で、最新のEUV露光装置を導入し、それを活用した製造プロセスの研究開発を進めており、代わる存在が見当たらない最適なパートナーだと言えます。imec CEOのLuc Van den hove氏は、日本での拠点をRapidusが工場を置く北海道に構える計画であることを明らかにしています。
 

図2


図2 2nm以降のデバイス開発、EUV露光を使ったプロセス開発を行う人材を育てるための素地はできた
(左)RapidusとIBMによる共同開発パートナーシップの締結、(右)Rapidusがimecの半導体微細化コアパートナープログラムへの参加契約を締結

出所:Rapidus、imec

 

新しい産業の立ち上げには、若い力も必要です。そもそも、新卒で半導体業界に身を投じてくれる学生がいるのかと心配する声も多くあります。実際、数年前まで「うちの学生は半導体業界だけには行かせない」と、かつての日本の半導体産業の苦境の中で苦しむ卒業生の姿を目の当たりにして、ハッキリ言っていた大学の教員もいました。しかし、現在は半導体再興に向けた動きを多くのマスメディアが盛んに取り上げるようになり状況が一気に好転。大学生の間では、半導体誘致による好景気に沸く九州だけでなく、全国的に「半導体業界はむしろ人気業界なのでは」と語るリクルート関係者が出てくるほど状況になっています。

ただし、確立した最先端の半導体技術を、量産適用し、ビジネス化する仕組みを構築するための人材、言い換えれば冒頭に挙げたDX人材が確保できるのか。この点に関しては、まだ不安を残しているように見えます。日本の半導体産業は、ことさら装置・材料メーカーの存在感が大きいため、どうしても製造技術の開発、特に要素技術の開発の領域に話題が集中しがちです。人材の確保・育成に関しても同様です。ところが、今、必ず確保しなければならないのは、過去の日本の半導体産業全盛期には見られなかった職種であるDXに関わる人材だと言えるでしょう。ここからは、この点にフォーカスして、求められる人材像についてもう少し深めていきたいと思います。

 

半導体製造ラインでフル活用されるようになったIoT、AI、データサイエンス

最先端半導体チップでは、たとえ研究開発が成功して試作品が出来上がり、同じ装置、同じプロセス、同じパラメータを使って製造したとしても、高い歩留まりが得ることが課題となりました。それどころか、同じ条件で製造しても、同じ歩留まで量産できるとは限らないほど気難しい技術になってきています。こうした傾向は、微細加工技術が進化し、プロセスが複雑化するにつれて顕著となっています。

例えば、歩留まり低下の要因となるパターニング不良やプロセス欠陥発生などの問題の発生頻度はますます高まっています。さらに、トランジスタや配線の構造が複雑化したことで、工程数が増大し続けているとともに、プロセス間での相互依存性も複雑かつ顕著に見られるようになりました。不良チップが大量の発生した場合には、直ちに原因となる工程を特定し、そこで不具合が発生した要因を突き止め、問題解決しなければなりません。
 

図3


図3 最先端の半導体工場では、毎日大量のデータを収集・処理・活用している
(左)キオクシア 四日市工場内のクリーンルーム、(右)毎日莫大なデータを処理して工場を最適運営

出所:キオクシア

 

さらに、問題が発生した時だけではなく、高レベルの歩留まりでチップを量産するためには、製造するチップの品種や装置の稼働状況はもとより、装置間の個体差や経時変化まで考慮しながら製造条件を、常に最適化し続ける必要が出てきています。ところが、1人のエンジニアがライン上の100台の製造装置を管理し、1台当たり平均20プロセス、各プロセス当たり15パラメータを調整しながら運用したとすると、このエンジニアは3万ものパラメータに目配りして最適化しなければなりません(図3)。どんなに熟練したエンジニアであっても、人の能力だけでは手に余るものになります。

そこで必須になってくるのが、DXの実践です。最先端の半導体工場を採算が取れるように運用していくためには、ライン上の製造装置や仕掛品であるウェーハなどから注目データをリアルタイムで自動収集するIoT、ビッグデータとして蓄積したデータから管理情報を抽出するAIや機械学習など情報処理システム、抽出された情報を基にパラメータを最適化して条件設定や装置の管理などに活かすためのデータサイエンスの知見が必要になってきます。そして、装置の異常検出や、仕掛品に発生した問題の分別を自動的に実施し、装置の個体差や経時変化の調整を自律的に行うことができるようにしておく必要があります(図4)。
 

図4


図4 仕掛品のウェーハ上に発生した欠陥をディープラーニングで分類し、適切な改善措置を実施
出所:キオクシア

 

日本の半導体業界は、最先端ロジックチップの生産において、初めてこうした量産に向けたDXに取り組むことになります。ただし、幸いなことに、これらの知見に関しては日本国内にも実績を持つ半導体メーカーが複数あります。まず、個別工程でのデータ活用に関しては、製造装置メーカーがIoTやAIを活用した自律的な製造条件の調整に対応する装置を開発しています。その、その知見を活かした人材育成が可能です。また、ライン全体でのデータ活用に関しては、最先端のメモリーチップを製造しているキオクシアやMicron Technologyが高度な技術を保有し、実践しています。また、熊本で建設されている台湾TSMCの工場でも、最新の半導体製造DXの姿が見られることでしょう。

これらの国内で得られる半導体製造DXの知見を起点に、多種多様な半導体デバイスの製造を担う人材像を洞察し、確保・育成していくことが重要になりそうです。ただし、半導体業界に限らず、IoTやAI、データサイエンスに関わる知識を持つ学生は引く手あまたの状態です。新卒学生を引き入れるためには、競争力のある相応の待遇を提供する必要があります。現実的には、製造技術に関する知見を持つエンジニアに、データサイエンスなどの知識と活用法を学んでもらい、“製造技術とデータサイエンスの二刀流人材”として育成することが求められそうです。

 

製造と設計の両方に目配りできる高度な人材が必要に

また、微細化やトランジスタ構造の複雑化に対応するために実施されるようになった設計とプロセスの擦り合わせ「設計・製造協調最適化(Design Technology Co-Optimization:DTCO)」に関連した知見とスキルを持つエンジニアの確保・育成も不可欠になります。

DTCOとは、設計ルールとプロセス条件のそれぞれのウィンドウから、シミュレーションによって、求める性能、消費電力、チップ面積の実現に向けて最適化する作業のことを指します。その実践には、製造技術に関する知識を活かしながら、素子や配線の構造やパターンなどを最適化する設計者を育成することになります。場合によっては、設計者側から、製造担当者に適切なリクエストを出せるほどの知見が必要になります。

こうした設計と製造の擦り合わせは、IDM型の半導体メーカーが得意としていた分野です。現在では、製造受託専業のファウンドリであっても、DTCOを実践できる設計者を確保・育成することが求められるようになった点が、2000年代以降の大きな変化です。

Rapidus 社長の小池淳義氏は、2023年5月にimecが開催した半導体イベント「ITF World 2023」での講演の中で、「Rapidusは、従来ファウンドリの大量生産を前提としたビジネスとは異なる、多品種少量のどこよりも速い短TATで製造するサービス『RUMS(Rapid & Unified Manufacturing Service)』を提供します。RUMSでは、どのような半導体を作るのか、ユーザー企業が仕様を決定するだけで、設計から実装までを引き受けます」と語りました。つまり、ファウンドリでありながら、設計もサービスメニューの中に包含し、これまでメーカーとユーザーの間で相互協力して進めていたDCTOを社内で完結させようとしているわけです。その実践に向けては、“製造と設計の二刀流人材”が必要になってきます。

2023年12月13日~15日に東京ビッグサイトにて開催される「SEMICON Japan 2023」では、日本の半導体産業の未来を担う人材の確保・育成を後押しするための数々のイベントが用意されています。今、どのような人材が求められているのか、そして時代の要請に応える人材を育成するために半導体関連企業として何ができるのか。そうしたイベントの中で議論して見てはいかがでしょうか。

 

SEMICON Japan / APCS 2023 に参加する

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