2023年10月18日(水)
日本の半導体産業“創生”を目指して共に挑む「SEMICON Japan 2023」
株式会社エンライト 伊藤 元昭
日本の半導体産業が、期待に満ちた時代を迎えています。ほんの十数年前、半導体生産の縮小・撤退、それに続く会社の解散/売却といった負の連鎖を目の当たりにした方々にとっては、まさに隔世の感があることでしょう。
国内に競争力のある最先端半導体産業が存在することが、あらゆる産業の成長・発展、社会での脱炭素化の推進、そして経済安全保障の確保に不可欠なことを、社会全体が明確に認識するようになりました(図1)。そして、日本政府が2021年6月に策定し、2023年6月に改定・強化した「半導体・デジタル産業戦略(いわゆる半導体戦略)」の下、国内半導体産業は、関連事業での2030年の国内売り上げを現在比約3倍に相当する15兆円超へと成長させるべく取り組んでいます。
図1 最先端の半導体チップの開発・生産は、あらゆる産業の競争力強化の源泉
写真は、米IBMが開発した2nm技術で製造したトランジスタの断面
出所:IBM
政府は、財政面はもちろんのこと、制度面や外交面まで、多角的支援を積極展開していく方向です。半導体業界の関係者にとっては、これ以上は望めないほどの順風が吹いていると言えるでしょう。これまで、こうした動きは、政府の先導が目立っていたように見えました。ただし直近では、千載一遇の大潮流を逃してはならないと見た企業が、半導体の作り手と使い手の違いに関わらず取り組みを活発化させています。
大きな成果を得た第1ステップ、次は第2ステップの具現化に注目
現在実践されている半導体戦略は、「半導体生産基盤の緊急強化」「次世代半導体技術基盤の確立」「将来技術基盤の実現」の3ステップで進められています。
そして、まずは2021年10月に台湾TSMCの熊本への進出が実現したことで、第1ステップの取り組みが顕在化。既に、関連産業の投資拡大や人材育成のための連携などの好循環が生まれ始めています。TSMCの第2工場設置計画の浮上や、台湾ファウンドリー大手の一角であるPSMCがSBIホールディングスと提携して日本での半導体工場建設を発表するなど、広がりも出てきました。加えて、日本の重電企業が高い競争力を保持するパワー半導体の領域でも、JSファウンダリが2024年夏に8インチ(200mm)パワー半導体専用ラインによる製造受託サービスの提供を予定するなど、新たな動きが見られています。
さらに、第2ステップの実像も、着実に見えてきました。2023年2月には2nm以降の最先端のロジック半導体チップの製造会社であるRapidus(ラピダス)と、半導体技術の研究開発拠点であるLSTC(Leading Edge Semiconductor Technology Center)が立ち上がり、同年9月には早くも北海道で新工場の起工式を行う状態にまで進みました(図2)。半導体業界の注目は、本当に2nm以降の製造技術を計画通り手中にできるのか、加えて持続可能な最先端ファウンドリービジネスを営む体制を構築できるのかに移っています。
図2 ラピダスが最先端半導体を開発・製造する北海道 千歳市の「IIM-1」
(左)IIM-1の完成イメージ図(右)2023年9月1日の起工式の様子
TSMCとは異なる日本固有の新たなファウンドリービジネス
ラピダスが目指すファウンドリービジネスの姿は、徐々に明らかになってきました。ベルギーimecが2023年5月に開催した半導体イベント「ITF World 2023」での講演に登壇した同社社長の小池淳義氏は、ラピダスが目指すビジネスについて、「今、半導体の製造には、一層のスピードアップが求められています。ラピダスでは、従来と比べて、半導体の製造期間を半分に短縮できる、多品種少量生産に最適化した半導体製造受託サービス『RUMS(Rapid & Unified Manufacturing Service)』を提供します」と語っています。
同社が構想するビジネスは、以下のようなものです。まず、生産ラインの枚葉化と自動化を推進。さらに、チップの価値を大きく左右するようになった後工程にも、最先端の技術を導入します。加えて、チップの設計から製造、実装までの作業を一貫受託することで、各工程間での連携・擦り合せを円滑化し、短TAT化を実現します。
ラピダスのファウンドリービジネスは、最先端の半導体製造技術で多様なチップを受託製造する点ではTSMCと共通しています。しかし、基本的に大量生産することを想定して工場の生産ラインを最適化するTSMCとは、構築するラインの姿も、ビジネスモデルも異なるものを想定していると言えます。これは、日本での最先端半導体の開発・製造体制は、その成り立ちから、国内の半導体需要家のニーズに合致したものである必要があるからです。
図3 変種変量生産ラインやマザー工場が多い日本の製造業
出所:トヨタ自動車、富士通
日本国内での需要家の中心となるICT(情報通信技術)・自動車・産業機械・医療機器・農機/建機・産業プラント/社会インフラなどの装置産業各社の多くは、それぞれの国内生産拠点において、需要変動に柔軟対応できる変種変量生産を実践しています(図3)。海外拠点で製品を大量生産する企業においても、国内拠点をマザー工場と位置付け、世界市場に“ジャパンクオリティ”の製品を展開できる体制を整備しています。これらの企業の競争力を維持・強化していくためには、各社が新しい価値を盛り込んで独自開発した最先端半導体チップを、国内でいち早く設計・生産し、入手できる柔軟な体制が必要になります。ラピダスは、こうした需要に応える新しいファウンドリービジネスを展開しようとしているのです。
国内外の企業・団体が、新たな半導体産業の創生に共に挑む「SEMICON Japan 2023」
本丸である最先端半導体工場を失ったとはいえ、日本には最先端の半導体製造に向けた製造装置・材料などを開発・供給する分厚いエコシステムが維持されています。世界の半導体産業の発展の中で蓄積してきた実績や経験を利用しながら、しがらみが清算された更地に理想的な開発・生産体制を構築できる状況にあります。
現在、日本の半導体業界が取り組んでいるのは、昔懐かしい「日の丸半導体」の再生ではありません。時代と社会の要請に応える、新たなかたちの半導体産業の“創生”に挑んでいるのです。これから確立しようとしている技術の中には、日本の半導体産業にとって未経験の技術も多く含まれています。最先端の微細加工技術にキャッチアップすることはもちろんのこと、生産効率と品質を向上させるための人工知能(AI)のような現代的な生産管理技術や、多品種大量生産に効率的に対応する枚葉型ライン関連の技術のような日本固有の技術も必要になります。また、チップレットなど、日本の半導体メーカーが過去に扱った経験がない高度な後工程技術も必要です。立ち上げるビジネスモデルや、想定するサプライチェーン、そして世界の半導体産業の中での立ち位置も、20世紀に経験したものとは全く異質なものになりそうです。
図4 2022年に開催された「SEMICON Japan 2022」の様子
出所:SEMI Japan
2023年12月13~15日、東京ビッグサイトにて「SEMICON Japan 2023」が開催されます(図4)。日本の半導体産業の活況と関連各社の高い士気と意思を反映して、展示会スペースは、前回比約1.7倍に拡大。前回、初めて開催された後工程に特化した同時開催の国際展示会「アドバンストパッケージング・アンド・チップレット・サミット(APCS)」も規模が大幅に拡大されます。
SEMICON Japan 2023は、日本の半導体産業が、国内外の関連企業と共に、これから創生しようとする新たな半導体産業の姿を論じ、それぞれの役割について洞察する得難いオープンイノベーション創出の場になりそうです。会場に足を運び、日本の半導体産業の熱気を肌で感じ、未来に向けた議論に参加してみてはいかがでしょうか。