2024年1月31日(水)
「半導体戦略とは、すなわち国家戦略」、継続的取り組みこそ最重要
株式会社エンライト 伊藤 元昭
日本での半導体産業再興の取り組みの動きが、国内半導体産業のみならず、あらゆる産業界、さらには世界からも大きな注目を集めています。こうした中、2023年12月13日から15日に掛けて、東京ビッグサイトで「SEMICON Japan 2023」が開催されました。
会期初日にSuperTHEATERで開催された「オープニングセレモニー」では、先端ロジックチップ製造ビジネスの再興を後押しする日本政府の決意が力強く語られました。さらに、続いて開催された「オープニングキーノートパネル 半導体の未来:世界の潮流と日本の戦略」では、現在の世界の半導体業界を取り巻く状況、現在までの日本での取り組みの経過、さらには今後の展望と方向性についてキーパーソンがそれぞれの立場から語りました。ここでは、日本の半導体産業の行方が垣間見えた、これらのイベントの様子をレビューします。
政府による半導体への支援は、継続・加速させていく
オープニングセレモニーの冒頭、岸田文雄首相から寄せられたビデオメッセージが流されました。
メッセージの中で首相は、世界の半導体産業のトップが日本の半導体産業への投資に前向きであること、製造装置や部素材をはじめ、世界の半導体サプライチェーンの中での日本が中核的役割を担っていることを強調。そのうえで、「日本の半導体産業の役割をさらに強固なものにするべく、国会で成立した補正予算で2兆円の半導体産業への支援策を織り込みました。今後も、過去に例のない投資減税などの措置を講じていく予定です」とさらなる取り組みの継続・加速を構想していることを訴えました。
図1 ビデオメッセージを寄せた岸田文雄首相
さらに、現在の日本は、長年続いてきた低物価、低賃金、低成長のコストカット型経済から、持続的な賃上げや活発な投資がけん引する成長型経済への変革を目指していることについて言及。国内投資をさらに活性化させるため、近く取りまとめる規制改革なども含めた国内投資促進パッケージのけん引役は「もちろん半導体です。既に経済効果は表れ始めています。半導体投資が進んでいる熊本県の工場では、全国平均よりも5万円以上高い水準の初任給が実現。九州七県でも設備投資額の伸び率が全国平均を大きく上回る61.7%増となるなど効果が波及しつつあります。半導体産業には、日本全国の地域経済の賃上げをけん引することを強く期待します。日本政府として最先端半導体の量産に挑戦するRapidusプロジェクトや、日本での半導体の量産投資を全力で支援していきます」と日本経済の近未来における半導体産業の重要性とそこにフォーカスしていく日本政府の強い意思を語りました。
続いて、政府が推し進める「半導体・デジタル産業戦略」を実践する役割を担う経済産業省の西村康稔大臣(当時)が登壇。先端半導体の製造基盤の整備に向けた支援などを「この2年間、世界のどこと比べても負けない、大胆かつスピード感のある取り組みで半導体政策を進めてきました。この流れを止めることなく加速させていくことが重要です」と今後の継続的な支援の重要性を強調しました。
図2 政府による半導体政策の取り組みについて語る西村康稔経済産業大臣(当時)
そして、2023年度補正予算による約2兆円での支援対象には、「Rapidusでの先端半導体開発の他、半導体製造装置から材料、設計、AI(人工知能)開発、次世代人材の育成に至るまで、広く半導体産業を支援していく計画です。今後は、日本が世界をリードして、世界のサプライチェーンの強靭化に貢献していきます」と、日本での産業振興にとどまらず、多面的領域において、世界の半導体サプライチェーンの中での日本の役割強化を目指していくことを強調しました。
あらゆる物事がデジタル化、半導体自国生産は自立した国の必要条件
オープニングセレモニーに続いて開催されたオープニングキーノートパネルでは、日本の半導体戦略の起案と実践を主導する政界と戦略の具現化を担う企業・開発機関それぞれのトップ、さらには各国や地域の政府や企業の動きを同期させて世界の半導体産業の成長を支援する業界団体のトップが一堂に集結。「これまでの成果」「半導体政策と国家戦略」「10年先の将来」「夢の実現に向けたメッセージ」という4つのテーマで議論しました。モデレーターはSEMIジャパン代表の浜島雅彦氏が務めました。
図3 オープニングパネルの登壇者
議論に先駆けて、SEMIのプレジデント兼CEOのAjit Manocha(アジット・マノチャ)氏が、世界の半導体産業を取り巻く環境と産業の状況を整理しました。
図4 SEMIのプレジデント兼CEOのAjit Manocha氏
同氏は、半導体業界は堅調に成長しており、2030年には市場規模が1兆米ドルに到達する可能性があることに触れたうえで、「予測では明るい未来が描かれています。ですが、それを実現するためには、大きく5つの課題に対処する必要があります。サプライチェーンの再設計、地政学的緊張への対処、人材不足への対応、カーボンニュートラル達成に向けた貢献、PFAS(有機フッ素化合物の一部)の使用規制への対処です。それらに適切に対処し、半導体産業の成長、ひいては世界経済の成長を実現するためには、世界中の政府や企業の協力が不可欠になります」と訴えました。そして、こうした中で、日本の半導体産業の貢献領域がさらに拡大し、重要性も高まっていることも併せて指摘しました。
日本での半導体再興に向けた取り組みについて、衆議院議員 自由民主党 経済安全保障推進本部長 半導体戦略推進議員連盟会長の甘利 明氏は、「半導体は、今や全てのシステムを動かす根幹技術です。半導体を制する者が、世界を制すると言っても過言ではありません。今後、世界は、半導体を供給する側とされる側の2つ、つまり、生殺与奪を握る側と握られる側に分かれることになるでしょう。日本での最先端ロジックチップ製造の再興は、生殺与奪を握るために不可欠な取り組みなのです」とその重要性を語りました。
図5 衆議院議員 自由民主党 経済安全保障推進本部長 半導体戦略推進議員連盟会長の甘利 明氏
そのうえで、Rapidusが挑む先端デジタルチップ製造ビジネスの立ち上げについて、「実現可能性について疑問の声が上がっていることも承知しています。だが、挑戦しないことには何も始まらない。そして、一度投資すると決めたからには、長期的な時間軸で考えて、最後までやり抜かなければならないと考えています」と挑戦することと継続することの重要性を強調しました。加えて、「日本の予算は単年度主義です。この部分では、財務当局の意識を改革しなければなりません。2022年に1兆3000億円の予算を得たのも仰天動地の数字でしたが、2023年には2兆円と継続し、やり遂げないと今までの投資が無に帰すという覚悟を財務当局に迫っています」と政府にとっての未経験の取り組みを推し進める覚悟を述べています。
一方、Rapidus取締役会長であり技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC) 理事長の東 哲朗氏は、LSTCでの2nmノードの先端ロジックチップの製造技術開発やRapidusでの事業の立ち上げの取り組みが順調に進んでいることを報告。「日本には、40nm以降も製造装置や材料のメーカーが、世界中の顧客と共に技術を磨き続けてきました。こうした最先端技術を保有する企業から全面的支援を受けております」と進捗状況を説明しました。
また、Rapidusが量産開始を目指している2027年~2028年ごろは、「先端チップ上のトランジスタ構造がFinFETからGAA(Gate-All-Around)に大きく変わり、半導体メーカー各社はすべて新たな生産技術を導入する予定です。生産するチップも、大量生産する汎用的な半導体から、多品種少量生産が求められるASICへと生産の中心が移り、競争力を生み出す生産技術は大きく変わることでしょう。そのタイミングでの市場参入は後発であるハンデは少なく、必ずや成功すると考えています」とRapidusのビジネスを立ち上げるタイミングは、天啓を得ていることを強調しました。
AIをフル活用した「技術立国 日本」に向け、設計人材の強化が必須
Ajit氏は、「約10年前、私が半導体関連の企業に席を置いていた時代には、政府は、どちらかといえば遠ざけておきたい存在でした。しかし現在、半導体業界が直面している課題は非常に複雑であり、政府の支援なしではこれらの課題を解決することはできなくなりました。さらに、半導体産業の成長と発展に対する政府の期待も、これまでにも増して高まっています」と、近年、半導体産業と各国や地域の政府との関係が極めて密になってきている状況を指摘しています。
政府側に立つ甘利氏は、「日本における半導体産業は、単に振興すべき産業という小さな位置付けではありません。半導体戦略とは、すなわち国家戦略そのものなのです。国の成長と繁栄の礎となる産業の成長を、国が推し進めるのは当然だと考えています」と語りました。そして、現時点で国家戦略としての半導体戦略は「経済安全保障なしには語れない状況です。地政学的緊張の中で、半導体サプライチェーンをどのように最適なかたちで築いていくかが重要になります。そして、その中で日本が強みを持つ精緻なものづくりを実践・強化していくための先端半導体技術を、信頼できる同盟国と共に、常時有事の心構えで機密情報を守りながら開発していくことが必須になります」と新たな枠組みでの協力関係構築の重要性を力説しました。
現在、先端ロジックチップの製造技術開発とその事業化に取り組んでいる東氏は、早くも戦略の次の方向性を見据えた意見を述べました。「人口減少が進む中で、AI(人工知能)およびAI半導体技術を積極的に取り入れることが極めて重要になってきます。これまで日本は、ものづくり(製造技術)で強みを持っていると言われてきました。しかし、今後、AIの積極的活用によって『技術立国 日本』を取り戻すためには、ものづくりだけでは不十分だと考えています。半導体の設計人材や新しいアプリケーションを開拓する人材の育成にも力を入れていく必要があります」と述べました。
図6 Rapidus 取締役会長 技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC) 理事長の東 哲朗氏
国や企業の枠を超えた連携・相互理解で実現する明るい10年後
では、10年後にも半導体業界が成長し続けていくためには、何が重要になるのでしょうか。Ajit氏は、「各国や政府、企業が協力的に連携しないと、半導体産業のさらなる成長は実現しないことを明確に理解することが大切です。現在直面している地政学的問題に対処していく過程で政府間や企業間、政府と企業間での対話が活発化しており、今後の10年間で相互の連携と理解が進み、問題解決できると確信しています」と再び国際的な協調の重要性を訴えました。
東氏も、「デジタル技術は、国や地域、産業分野の垣根を超えた連携を可能にするボーダーレスな技術です。国家間での地政学的な問題が顕在化していますが、デジタル技術の特性を活かしながら、友好国の間で、いかに垣根をなくして強いサプライチェーンを構築していくかが重要だと考えています」と指摘しています。
図7 将来の日本の半導体産業に対するそれぞれの思いを語った
一方、甘利氏は、急速に発達するAIの今後の活用を念頭に置きながら、半導体の使い先の成熟を見据えた未来について語りました。「私は、AIの研究者に会う際には『いつの時点でAIは自我を持つのか』と質問しています。すると多くの場合、答えに窮しながらも『近い将来ではない』と言います。ですが、この答えは逆を返せば将来は自我を持ち得るということです。現在の社会システムや法制度は、こうした進化したAIと共存することを想定したものにはなっていません。AIを見方にし、技術を良い方向に利用できるようにするための仕組み、国際ルールを作ることが重要だと考えます」と語りました。
パネルの最後に、パネリスト各氏は、それぞれの立場からの今後の夢を語りました。
Ajit氏は「SEMIを代表する立場からは、世界中の政府や企業が円滑かつよい形で連携できるような仲立ちをする役割を果たし続けていけることが夢です」と述べました。
一方、東氏は、「『夢』とは、未来への期待だと考えています。よく若者に対して『夢を抱け』と叱咤激励する声を聞きますが、大人が夢を抱いていなければ、若者が夢を抱けるはずがありません。私の夢は、Rapidusを是が非でも成功させて、日本の半導体製造の20年の後れを取り戻し、未来に期待ができるような最先端半導体開発の基盤を創ることです」と力強く語りました。
最後を締める甘利氏は、「私の夢は『明日は今日よりきっと良い』と思える社会を創ることです。高度経済成長期には、幸せが順番に巡ってくることを信じることができたため、『人の幸せは、自分の幸せ』と素直に喜べました。しかし、現代は『人の幸せは、自分の不幸』になってしまっています。私たち政治家は、国民全員が明日に希望を持てる日本を目指しています」と語り、パネルでの議論を締めました。