2021年11月25日(木)
ビジネス視点からの半導体技術の最前線、
2021年のSTSの見どころ
株式会社エンライト 伊藤 元昭
直近の半導体産業は、技術とビジネスの両面で歴史的変革期の中にあります。
技術面では、微細加工技術のさらなる進化に向けて専ら邁進すればチップの性能向上が約束されていた時代から、後工程での新技術の投入や新たなデバイス構造・新材料の導入などにも併せて積極的に取り組む、総合的な技術戦略の構想と実践が必要な時代に入りました。これによって、半導体チップの製造プロセスや製造装置・材料を開発するエンジニアと研究者には、これまで以上に多様な技術の知識と知見が求められるようになってきています。
一方、ビジネス面では、地政学的なリスクや過度な大きな需給変動、サプライチェーンの混乱に耐えるレジリエントなチップの供給体制の構築が急務になっています。そして、日本国内でもチップの製造体制を再び強化する動きが活発化。半導体の製造プロセスの研究開発に携わるエンジニアの育成が不可欠になってきています。
こうした動きに適切に対応するためには、まず、ビジネス視点から半導体製造技術の最新トレンドを正確に把握しておく必要があります。2021年12月15日(水)〜17日(金)にSEMICON Japan 2021 Hybridの中で開催される「SEMIテクノロジーシンポジウム(STS)」は、こうした時代の要請に応える貴重な情報収集の場となります。
ビジネス視点から、技術の最新動向と将来展望を俯瞰
STSは、最新の半導体製造技術に関する情報を総覧できる、SEMICON Japanの顔とも言える国際シンポジウムです。1982年から毎年継続開催されており、40回目を迎える今回は昨年よりも規模を拡大して開催します。
STSは、投稿形式で講演者を集める学会とも、営利目的で主催される講演会やセミナーとも異なる方法で企画・運営されるユニークなシンポジウムです。「各セッションの講演を企画・運営するSEMIテクノロジー推進委員は、業界を代表する企業や大学、研究開発機関で活躍している方々であり、ボランティアで参画しています。企業人が中心となって企画・運営していることから、ビジネス的観点から重要性が高い技術動向にフォーカスして、業界全体でシェアしておくべきトレンドや知見、注目すべきホットな動きを選定し、最も適した講師を国内外から選出して招聘しています」とSTS 2021 プログラム委員長を務めるキオクシア メモリ技術研究所 プロセス技術開発研究センター シニアエキスパートの冨田 寛氏は言います。
今回のSTSは、8セッション、20件の講演が用意され、各分野の第一線で活躍するエンジニアや研究者が登壇(図1)。半導体プロセスとデバイス、その周辺分野の技術動向、実用化、市場動向について、最新の現状認識と将来展望を語ります。講演終了後には、質疑応答とは別に講演者と直接議論するオーサーズ・インタビューの機会が設けられています。有識者と直接議論することで、トレンドの認識と理解を深める貴重な機会となることでしょう。
図1 STS 2021のプログラムと講演会場
コロナ禍の真っ只中にあった昨年はバーチャル環境での開催でしたが、今年は、リアルな講演の聴講とZoomを利用したライブ配信(ただし、会期後のオンライン聴講はできません)での聴講のいずれの方法でも参加可能になります。質と量が向上し、より参加しやすくなりました。
微細加工技術の進化の基軸、EUV露光の行方を探る
STSは、学会のような新技術を真っ先に知る場というより、ビジネスの現状認識と技術の方向性、将来展望を有識者と共に議論し、時代が進む方向を感じ、理解する場だと言えます。用意されている複数の講演は、いずれも近未来の半導体産業を映す話題です。1セッションだけでなく、複数セッションを受講することで、ダイナミックに変化する半導体産業の状態と動きを面で捉えることができます。8つのセッションそれぞれの位置づけと、見どころを紹介します。
「先端リソグラフィー セッション」では、ASMLジャパン、キヤノン、ニコンからそれぞれ講師を招き、EUVおよび新たなリソグラフィー技術の最新動向を議論します。ここでは、ASMLジャパン テクニカルマーケティング ディレクターの森崎健史氏が、EUV露光HVMの技術と応用の最新状況を5nmデバイスノード向けでの同社のEUVシステム「NXE3400C」の性能と共に報告します。さらに、2021年第2四半期にリリースされたばかりの次世代機「NXE3600」の性能データとASMLのEUVロードマップを披露。今後10年間の継続的スケーリングを見据えたHigh-NA(NA = 0.55)EUVシステムについても語ります。
「テスト セッション」では、群馬大学、テラダイン、アドバンテストから招いた講師が、年々重要性が高まるテスト技術の最先端の動きを解説します。ここでは、群馬大学 EVALUTOの畠山一実氏が、AIを活用した効果的で効率的なテスト技術、さらには多くのIT企業や半導体メーカーなどが続々と開発し始めたAIチップのテスト手法について解説します。
「パワーデバイス セッション」では、産業タイムズ、富士電機、名古屋大学、ノベルクリスタルテクノロジーから招聘した講師が登壇。クルマの電動化や脱炭素の潮流でさらなる進歩が期待されるパワーデバイスの市場動向やパッケージ技術、さらには新材料の適用に関連した最前線の動きを紹介します。ここでは、富士電機の池田良成氏が、パワーデバイスの進化に不可欠な最新パッケージ技術、さらにはSi-IGBTやSiC-MOSFETなどがより進化していくうえで今後導入が期待されている技術を解説します。
「パッケージング セッション」では、エー・アイ・ティ、村田製作所、インターコネクション・テクノロジーズからの講師が、さらなる微細化の進展に欠かせなくなった先端3Dパッケージング技術や5Gやセンシングなど利用分野が広がるミリ波パッケージング技術を解説します。ここでは、村田製作所の上田英樹氏が、5Gや無線LANの新規格IEEE802.11ayなどで利用されるミリ波帯通信に向けた、RFICとアレーアンテナを一体化した低損失の集積モジュール「AiM」を紹介します。そして、その実現に投入したアンテナ設計・パッケージング・材料技術を解説します。
AIや量子コンピュータの進化を後押しするデバイス・材料とは
「MEMS・Smartセンシングデバイス セッション」では、Yole Development、ソニーセミコンダクタソリューションズ、ミライズテクノロジーズ、新日本無線からの講師が、IoTデバイスなどのさらなる高度化・小型軽量化に欠かせないMEMSの最新動向を紹介します。ここでは、ソニーセミコンダクタソリューションズの香川恵永氏がイメージセンサーのさらなる進化を見据えた3次元実装技術を紹介します。また、トヨタ自動車とデンソーの合弁で設立された半導体開発企業であるミライズテクノロジーの橋本雅人氏がCASEトレンドに沿った進化に欠かせない車載半導体についてセンサーを中心に解説します。
「特別セッション」では、IBM Research、京都大学、ソニーセミコンダクタソリューションズからの講師が、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推し進める際のキーテクノロジーであるAI技術の進化と応用に向けた取り組みについて議論します。半導体チップ設計への適用をテーマとして、IBMのVijay Narayanan氏がAI関連処理を効率化する様々なハードウェア手法を、ソニーセミコンダクタソリューションズの浴 良仁氏が世界初のAI処理機能を搭載したCMOSイメージセンサーを解説します。応用面からは、京都大学 大学院医学研究科 教授の奥野恭史氏がAIを活用した創薬について紹介します。
「先端材料・構造・分析セッション」では、日本の装置・材料の世界市場での強さの源泉と将来展望を探ります。デバイスメーカーの数は減ったものの、日本の装置・材料を開発・供給するメーカーの世界での存在感は依然として極めて大きいと言えます。このセッションでは、半導体業界に関する2人の論客が登壇。微細加工研究所の湯之上 隆氏が前工程向け装置・装置材料での競争力について、AZサプライチェーン・ソリューションズの亀和田忠司氏が後工程向けでの競争力について論じます。さらに、JSRの島 基之氏が、フォトレジストにフォーカスして、その国際的な強さの背景と将来展望について語ります。
「先端デバイス・プロセス セッション」では、東京工業大学、マイクロンメモリジャパン、日本アイ・ビー・エムからの講師が、さらなる微細化を見据えた様々な構造の先端デバイスやメモリーの開発の現状と将来展望を論じます。ここでは日本アイ・ビー・エムの山道新太郎氏が、日本初のゲート型商用量子コンピュータのハードウェアとそこに使われている素材や機関部品について解説します。量子コンピュータのハードウェアに関する情報は極めて稀であり、貴重な情報収集の機会となることでしょう。